2020年10月26日
電話がネット化した今、長距離という概念もなくなり、ルーターの外側はすぐ世界と繋がっているから、長距離電話や国際電話を分割しても意味がないが、当時はそうではなかった。
2020/10/9付けの大前研一さんの「 ニュースの視点」（発行部数 156,215部）は「NTT／楽天〜そもそもNTTの分割自体に意味がなかった」と題する記事である。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
１．NTTは先月29日、NTTドコモの完全子会社化に向けてTOBを実施すると発表した。NTTの澤田社長とドコモの吉澤社長は「菅首相が意欲を示す携帯電話料金の値下げに対応しながら成長するため」としている。この問題については、違う角度から見る必要がある。「そもそもNTTを分割した意義はあったのか？」という点から考え直すべきである。
２．1985年に民営化したNTTは、まず数年後にNTTドコモ・NTTデータを分社化した。その後、1999年の再編成で、東西地域会社としてNTT東日本とNTT西日本が、また長距離・国際電話を担うNTTコミュニケーションズが誕生した。当時、大前氏は「分割すべきではない」と強く反対した。しかし世論の圧力もあり、結局NTTの分割は行われた。
３．電話がネット化した今、長距離という概念もなくなり、ルーターの外側はすぐ世界と繋がっているから、長距離電話や国際電話を分割しても意味がないが、当時はそうではなかった。また国内を2つに分けたのも、鉄道ならまだしも、電話の場合にはほとんど意味はなかった。
４．もともとNTTを分割するという概念は、米国のAT&Tから強く影響を受けたものである。AT&Tは米国であまりにも独占体として強くなりすぎたために、反トラスト法をめぐって、7つの地域電話会社（ベビーベル）と1社の長距離電話会社（AT&T）に分割された。
５．時を経て、2つのベビーベルが統合してベライゾンになり、サウスウェスタン・ベルを中心にした5つのベビーベルが合併と買収を繰り返し、今のAT&Tが生まれた。AT&Tとベライゾンの2社は非常に強く、日本のソフトバンクをはじめとして、外国勢の米国市場への参入を見事に退けているが、「結局7つに分割した意味はあったのか？」というと疑問である。
６．AT&T分割ではベル研究所を切り離したが、米国にとって大きな損失になった。ベル研究所はAT&Tから分割された後、フランスのアルカテルの配下になり、今はノキアに買収されて傘下に入っている。ノキアの5G技術を支えているのは、この元ベル研究所の技術である。
７．5Gの覇権をめぐって、ノキア、エリクソン、ファーウェイが争っているが、もしノキアがベル研究所を買収していなければ、エリクソンとファーウェイによる一騎打ちの構図になっていたはずである。AT&Tの事例も踏まえ、NTTも「そもそも分割する意義がどこにあったのか？」を見つめ直して反省することから始めることが大切である。
８．NTTは国内だけでも可能性は山ほどあるが、NTT法によって縛られている。NTTドコモの買収そのものはスムーズに行われると思う。TOBとはいえ、NTTはあと1%保有すれば、NTTドコモ株全体の67%を保有することになる。3分の2以上の保有率になるので、やろうと思えばスクイーズアウト（少数株主の排除手続き）も可能である。そのような状況にもかかわらず、NTTは良い条件を提示しているから、TOBで揉めることはない。
９．NTTの業績を見ると、売上自体は落ちていないが、やはり移動通信の利益が大きく、依存度が高くなっている。澤田社長の「一体化」という言葉を聞くと、この先もスマホ・携帯が主戦場になってくるので、NTTドコモを中心に立て直すという意思を感じる。「NTTドコモと一体化することで、海外展開も可能になるのでは？」という意見もあるが、NTTは海外に行く前に、国内でできることが山ほどある。
１０．NTTは電話料金を何十年も支払っている人たちの貴重な顧客情報を保有している。これは極めて大きな信用情報である。これを活用してNTTが銀行業やクレジットカード事業を始めるなら、あっという間にサービス展開が可能である。さらに、料金回収の仕組みも持っているので、NHKの料金回収すら簡単に代行できる。アントファイナンシャルのようになるもよし、eコマースをやるもよし、何でもできる。
１１．NTTは「NTTドコモと一体化して海外展開を」などと考える前に、まず国内の顧客情報を活用することを考えるべきである。そのような事業を展開するときに、NTTの足枷になるのが「NTT法」である。「NTT法」により縛られていることはたくさんあるが、代表的なものは「全国どこでも固定電話サービス」の義務である。小さな離島、あるいは山間部に一軒だけでも残る世帯があれば、その一軒のために電線や海底ケーブルなどを維持することが求められている。通信業者の中で、このような「シビル・ミニマム」という
十字架を背負っているのはNTTだけで、auやソフトバンクには適用されていない。本来であれば、こうした費用は参入している全社で分け合うべきだが、NTTがそのようなことを言い出せば、「強者のくせになんだ」という批判を受ける。
１２．「NTT法」が施行された頃から時代は変わっている。ソフトバンクなどは、世界最大規模のサウジアラビアのファンドを味方につけてやりたい放題にしているのだから、NTTだけが「強者だから」という理由で重荷を背負うのはおかしい。NTTの澤田社長の立場なら、現状において「シビル・ミニマム」で縛られているために、前向きなことをやらせてもらえないという状況を打開することを考える。たとえば、政府に働きかける動きをとる。
１３．菅首相は「電話代を下げろ」などと発言しているが、少なくとも資本主義国において、他にも携帯電話会社はたくさんあるのだから、政府が値段を下げろと発言するのはおかしい。全くの「余計なお世話」であり、逆手に取って「もし価格設定にまで介入するなら、その前にNTT法を取り下げろ」と交渉する。
１４．全面的な撤廃は難しくても、携帯受信システムの構築費を各市町村に負担させるなど、NTTだけに全てを負わせるのはやめると主張することもできる。NTTは国内において大きなビジネス基盤を持っている一方、NTTだけが「NTT法」に縛られている状況にある。NTTの今後の展開を考える時には、このあたりを中心に考えるべきである。
１５．楽天は先月30日、次世代通信規格5Gのサービスについて、データ使い放題で月額2980円（税抜）で提供すると発表した。楽天の価格優位性について、世間では疑問視する声もある。この点について三木谷会長は、海外の特許も使ってソフトウェアでカバーしているところが多く、基地局をたくさん作るなどといった固定費がかさむ大きな投資は行っていない、と説明している。
１６．この問題よりも、楽天が発表している「人口カバー率90%」という指標が気になる。日本で人口カバー率90%と言っても、実際のところ「地理的なカバー率」でいえば、15%ほどである。人里離れた場所に行くと、auでさえ電波が通っていない地域が多くある。携帯電話のサービスレベルを判断するにあたって「人口カバー率」という指標にどれだけ意味があるのか、と疑問になる。
１．NTTは先月29日、NTTドコモの完全子会社化に向けてTOBを実施すると発表した。NTTの澤田社長とドコモの吉澤社長は「菅首相が意欲を示す携帯電話料金の値下げに対応しながら成長するため」としている。この問題については、違う角度から見る必要がある。「そもそもNTTを分割した意義はあったのか？」という点から考え直すべきである。
２．1985年に民営化したNTTは、まず数年後にNTTドコモ・NTTデータを分社化した。その後、1999年の再編成で、東西地域会社としてNTT東日本とNTT西日本が、また長距離・国際電話を担うNTTコミュニケーションズが誕生した。当時、大前氏は「分割すべきではない」と強く反対した。しかし世論の圧力もあり、結局NTTの分割は行われた。
３．電話がネット化した今、長距離という概念もなくなり、ルーターの外側はすぐ世界と繋がっているから、長距離電話や国際電話を分割しても意味がないが、当時はそうではなかった。また国内を2つに分けたのも、鉄道ならまだしも、電話の場合にはほとんど意味はなかった。
４．もともとNTTを分割するという概念は、米国のAT&Tから強く影響を受けたものである。AT&Tは米国であまりにも独占体として強くなりすぎたために、反トラスト法をめぐって、7つの地域電話会社（ベビーベル）と1社の長距離電話会社（AT&T）に分割された。
５．時を経て、2つのベビーベルが統合してベライゾンになり、サウスウェスタン・ベルを中心にした5つのベビーベルが合併と買収を繰り返し、今のAT&Tが生まれた。AT&Tとベライゾンの2社は非常に強く、日本のソフトバンクをはじめとして、外国勢の米国市場への参入を見事に退けているが、「結局7つに分割した意味はあったのか？」というと疑問である。
６．AT&T分割ではベル研究所を切り離したが、米国にとって大きな損失になった。ベル研究所はAT&Tから分割された後、フランスのアルカテルの配下になり、今はノキアに買収されて傘下に入っている。ノキアの5G技術を支えているのは、この元ベル研究所の技術である。
７．5Gの覇権をめぐって、ノキア、エリクソン、ファーウェイが争っているが、もしノキアがベル研究所を買収していなければ、エリクソンとファーウェイによる一騎打ちの構図になっていたはずである。AT&Tの事例も踏まえ、NTTも「そもそも分割する意義がどこにあったのか？」を見つめ直して反省することから始めることが大切である。
８．NTTは国内だけでも可能性は山ほどあるが、NTT法によって縛られている。NTTドコモの買収そのものはスムーズに行われると思う。TOBとはいえ、NTTはあと1%保有すれば、NTTドコモ株全体の67%を保有することになる。3分の2以上の保有率になるので、やろうと思えばスクイーズアウト（少数株主の排除手続き）も可能である。そのような状況にもかかわらず、NTTは良い条件を提示しているから、TOBで揉めることはない。
９．NTTの業績を見ると、売上自体は落ちていないが、やはり移動通信の利益が大きく、依存度が高くなっている。澤田社長の「一体化」という言葉を聞くと、この先もスマホ・携帯が主戦場になってくるので、NTTドコモを中心に立て直すという意思を感じる。「NTTドコモと一体化することで、海外展開も可能になるのでは？」という意見もあるが、NTTは海外に行く前に、国内でできることが山ほどある。
１０．NTTは電話料金を何十年も支払っている人たちの貴重な顧客情報を保有している。これは極めて大きな信用情報である。これを活用してNTTが銀行業やクレジットカード事業を始めるなら、あっという間にサービス展開が可能である。さらに、料金回収の仕組みも持っているので、NHKの料金回収すら簡単に代行できる。アントファイナンシャルのようになるもよし、eコマースをやるもよし、何でもできる。
１１．NTTは「NTTドコモと一体化して海外展開を」などと考える前に、まず国内の顧客情報を活用することを考えるべきである。そのような事業を展開するときに、NTTの足枷になるのが「NTT法」である。「NTT法」により縛られていることはたくさんあるが、代表的なものは「全国どこでも固定電話サービス」の義務である。小さな離島、あるいは山間部に一軒だけでも残る世帯があれば、その一軒のために電線や海底ケーブルなどを維持することが求められている。通信業者の中で、このような「シビル・ミニマム」という
十字架を背負っているのはNTTだけで、auやソフトバンクには適用されていない。本来であれば、こうした費用は参入している全社で分け合うべきだが、NTTがそのようなことを言い出せば、「強者のくせになんだ」という批判を受ける。
１２．「NTT法」が施行された頃から時代は変わっている。ソフトバンクなどは、世界最大規模のサウジアラビアのファンドを味方につけてやりたい放題にしているのだから、NTTだけが「強者だから」という理由で重荷を背負うのはおかしい。NTTの澤田社長の立場なら、現状において「シビル・ミニマム」で縛られているために、前向きなことをやらせてもらえないという状況を打開することを考える。たとえば、政府に働きかける動きをとる。
１３．菅首相は「電話代を下げろ」などと発言しているが、少なくとも資本主義国において、他にも携帯電話会社はたくさんあるのだから、政府が値段を下げろと発言するのはおかしい。全くの「余計なお世話」であり、逆手に取って「もし価格設定にまで介入するなら、その前にNTT法を取り下げろ」と交渉する。
１４．全面的な撤廃は難しくても、携帯受信システムの構築費を各市町村に負担させるなど、NTTだけに全てを負わせるのはやめると主張することもできる。NTTは国内において大きなビジネス基盤を持っている一方、NTTだけが「NTT法」に縛られている状況にある。NTTの今後の展開を考える時には、このあたりを中心に考えるべきである。
１５．楽天は先月30日、次世代通信規格5Gのサービスについて、データ使い放題で月額2980円（税抜）で提供すると発表した。楽天の価格優位性について、世間では疑問視する声もある。この点について三木谷会長は、海外の特許も使ってソフトウェアでカバーしているところが多く、基地局をたくさん作るなどといった固定費がかさむ大きな投資は行っていない、と説明している。
１６．この問題よりも、楽天が発表している「人口カバー率90%」という指標が気になる。日本で人口カバー率90%と言っても、実際のところ「地理的なカバー率」でいえば、15%ほどである。人里離れた場所に行くと、auでさえ電波が通っていない地域が多くある。携帯電話のサービスレベルを判断するにあたって「人口カバー率」という指標にどれだけ意味があるのか、と疑問になる。
