新技術

2018年02月24日

味には5つの基本味がある。甘味、塩味、苦味、酸味、うま味の5つである。これに物理的感覚でもある渋味と辛味が加わり、これら七つを基本味と呼ぷこともある。

「都甲潔著(九州大学大学院システム情報科学研究院主幹教授・同味覚嗅覚センサ研究開発センター長:味を測る、學士會会報No.925(2017-IV)は参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.「味」は測ることができるか疑問である。哺乳動物の場合、味覚は化学物質を舌の味蕾の味細胞で受け取って生じる感覚であり、5つの感覚(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)の中でも、嗅覚と同様、主観性が強い感覚と思われているが、ある食品の味を記録し他人に伝える手段は存在しない。
2.味とは私たちが心に思い、言葉にする味は、五感が統合された感覚であり、主観そのものである。舌にはブツブツの舌乳頭が存在し、舌乳頭は複数の味蕾から構成され、味蕾もまた複数の味細胞から成る。味細胞の大半は酸味や苦味といった一つの味質に応答する。味細胞は各味質に対応し分化しているので、味細胞から味神経、そして脳へ味情報が伝えられる際に、大きな信号処理はなされない。
3.「脳で感じる味」と「舌で感じる味」は違う。「脳で感じる味」は五感が融合された感覚で主観であるのに対し、「舌で感じる味」は客観である。客観であれば数値化できる。
開発された味覚センサはこの「舌で感じる味」を数値化するものである。
4、味には5つの基本味がある。甘味、塩味、苦味、酸味、うま味の5つである。これに物理的感覚でもある渋味と辛味が加わり、これら七つを基本味と呼ぷこともある。辛味は痛みや温度感覚であり、厳密には味覚ではない。渋味は味覚と触覚の中間の味と考えられており、味覚では苦味に類する味である。
5.塩味はミネラルの供給、甘味はエネルギー源、苦味は毒性の警告、酸味は腐敗のシグナル、そして五番目の味である「うま味」は約百年前に日本人が発見した味であり、タンパク質や核酸類に起因する味である。形容詞の「おいしい」や「うまい」と直接には関係のない。
6.味覚センサは1989年に発明された。脂質と高分子を混合して作った膜(脂質高分子膜)を味物質の受容部分とし、この複数の脂質膜からなる電位出力応答から味を数値化(デジタル化)する。脂質分子は、親水基を水相側に、疎水部を膜内部に配向する。自己組織化能という自分で自分を作り上げる能力をもつ。
7.市販の味覚センサは、各脂質膜電極が各味質(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味、渋味)に選択的な応答を示す。センサの応答閾値がヒトと近く、応答強度もヒトと同じく対数的に変化するため、単純な比例計算で、ヒトの感じる基本味の数値化に成功している。
8.味覚センサの各受容膜が各味質に固有に選択的に応答する。この性質は「広域選択性)」と呼ばれる。化学物質を選択的に受容する従来の化学センサと比して、味覚センサは個々の化学物質ではなく、化学物質を甘味や苦味等の味質に分類し、味質に選択性を有する能力を有する。
9.従来の化学センサは「化学物質に選択性」を示す。また生体内における抗原抗体反応も抗原に高い選択特異性を有する。酵素反応もそうである。つまり、化学物質と受容体(レセプター)は一対一結合である。それを利用したのが、血糖値センサに代表されるグルコースセンサである。
10.味覚センサは「化学物質ではなく味質に選択性」を示す。この性質は味覚機構を再現したものであり、生体におけるレセプターも同じ味質の化学物質を同時に受容できる。
11.現在の味認識装置は、多くの食品、例えば、コーヒー、お茶、ビール、日本酒、焼酎、ワイン、だし、スープ、お米、肉類、餃子、牛乳、ミネラルウォーター、味噌、醤油、カボスやミカンなどの果物、野菜、お菓子へ適用され、その味の定量化ならびに新食品の開発に利活用されている。
12.味覚センサの電圧出力は味強度に変換されるが、その際、人の識別能が化学物質濃度の1.2倍以上という性質を利用する。つまり、人は1.2倍より小さな違いを識別できない。味覚センサでは、目盛「1」をその濃度差に設定した。つまり、目盛「1」は人にとって識別のつくギリギリの味の差であり、「5」だと容易に識別可能、「10」だと味が大きく異なる。13.音楽は、視覚で処理できる楽譜が普及したために、私たちは21世紀にあって2百年以上前のモーツァルトやベートーベンの曲を再現し、聴くことができる。食の世界も食譜という共通の言語、伝達手段の確立により、誰にでもわかる共通の尺度をもって味を語り合える時代が来る。目的の味を創り出すことは既に食品や医薬品メーカで行われ、JALの機内で提供されるコーヒーは、味覚センサによる味データベースを元にその味を実現した。14.味覚センサは日本で産まれ、日本で揉まれ成長し、世界に広がりつつある。CPS(Cyber Physical System)またはIoTのグローバル化した社会にあって、これらセンサの作る日本発のデータベースならびに人の官能によるデータベースの共有は、新しい時代の到来を予見させる。





yuji5327 at 07:04 

2018年02月19日

技術ーの進歩であらゆる生き物、すべての個体の遺伝情報を解読できる時代になった。個人の遺伝情報は究極のプライバシーであり、その扱いは難しい。

「榊佳之著(静岡讐葉学園理事長・東京大学名誉教授・東大・理博・理・昭41):遺伝子診断・検査と社会、判りすぎるジレンマー、學士會会報 No.925(2017-IV)」は参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.胎児の出生前診断は古くから行われてきたが、2010年に香港大学の研究者が母親の血液中にごく微量ではあるが胎児のDNAが混じっていることを発見して以来状況は一変した。
2.高度なDNA解析技術を駆使して、ごく微量の胎児DNAを簡便、かつ同精度に検出できる技術を米国企業が2011年に開発、それをダウン症など胎児の染色体異常の検出に応用した。
3.この新型出生前診断法は母体からの採血という簡便安全な手法で99%近い精度で胎児の染色体異常を検出できるとあって米国を中心に急速に広まり、2013年に日本でもビジネス展開を図ろうとした。しかし、安易な妊娠中絶の拡大など、その社会的影響の大きさを懸念したわが国の産婦人科医グループの主導により、わが国では新型出生前診断はビジネス主導ではなく「高年齢で、且つ指定された医療機関で十分なカウンセリングを受けた者のみを対象とする」との方針が出された。
4.この医師主導の方針は誠に適切な対応であると思うのは、この診断技術はいずれその精度を上げて、胎児の遺伝子タイプまで検出し、優生学的な胎児の選別に使われるリスクを持っているからである。
5.テクノロジーの進歩によってあらゆる生き物、すべての個体の遺伝情報を解読できる時代になった。何事も判りすぎるのは善し悪しだが、個人の遺伝情報は究極のプライバシーでもあり、その扱いは特に難しい。
6.どのような距離感で対応するのか、個々人の意識、生き方と関わってくる。私は奉職する女子校で高校一年生の生物基礎の授業の中でゲノム・遺伝子診断・出生前診断などについての特別授業を行っているが、授業後の感想文は、いずれ結婚、妊娠、出産と向き合う自分たちの人生を重ね合わせ、一様に生命の尊さへの思いを示すとともに、「自らの遺伝的特質を知って人生の生き方をしっかり考えたい」という積極派から「遺伝の情報は神様から自分へのメッセージとしてそっと大切にしまったままで生きたい。」という慎重派まで多様である。判りすぎる社会、一人ひとりの生き方が今まで以上に問われる時代となってきた。


yuji5327 at 07:17 

2018年02月12日

そう遠くない将来に、藻類を利用して石油を作る時代になる。藻類エネルギー技術開発を率先すれば、日本は世界を先導できる。

「深井有著:
地球はもう温暖化していない、科学と政治の大転換へ、平凡社、2015年」は参考になる。CO22削減の国家プロジェクトに参画した自分にとって共感できる記述も多い。「第4章:今後とるべき政策を考える」の「3.物理学者の見る地球温暖化問題」の印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.新しいエネルギー技術は一朝一夕にできるものではない。CO2排出削減のキャンペーンに踊らされて太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入が急がれているが、これらの多くは技術として未熟であり、経済性も劣っている。なかには設備や輸送に要するエネルギーを考慮すると、全体としてエネルギーを消費してしまうものもある。誤ったキャンペーンに惑わされることなく、人類の将来を見据えた技術開発に取り組むべきである。
2.大気中のCO2からエネルギーを作り出すのは、新しいバイオマスエネルギーの開発である。これまでのバイオマスエネルギーは植物油や糖質・デンプンから作ったエタノールなどがあるが、次世代のエネルギー源としては藻類の作る炭化水素が本命である。
3.藻類とは、コンブやワカメのような海藻を思い浮かぶが、多種多様である。瀬戸内海に害をもたらす赤潮、富栄養化した湖に発生するアオコ等々、形態も生育場所も大きく異るが、すべて藻類である。光合成を行う生物の中で陸上の植物を除いたすべてが藻類である。
4.藻類は陸上植物に比べて数10倍から100倍も速く増殖し、1日でほぼ倍増する。これは水中では陸上植物のような身休を支える組織が必要でなく、ほとんどすべての細胞が光合成に参加できるからである。
5.藻類のなかには多量の油脂を作るものがある。このような藻類は陸上穀物の約200倍のエネルギーを生産することができ、現在、世界で石油として消費されているエネルギーを作らせるためには全耕地面積の2〜4%があればよい。
6.エネルギー源としての藻類の組織的な研究は、米国エネルギー省(DOE)による「水生藻類プログラム」(1978〜1996)が最初であった。オイルショックによって始められたこのプロジェクトは石油価格の沈静化によって打ち切られ、その後は藻類エネルギーへの関心は薄れたが、数年前から復活し、世界中で研究開発が進められている。
7.2010年に米国DOEから出された報告書「藻類燃料ロードマップ」には、藻類燃料は国を挙げて取り組むべきとして、今後の研究方針も詳述されている。この分野にはすでに10億ドルを超える国家予算が投入されており、さらに大きな研究投資がされようとしている。
8.わが国では筑波大学の渡辺信を中心とするグループが藻類の生態学に根ざした基礎研究から油を産生する種の採集・選別・培養に至る系統的な研究を行っていて、その成果は世界的な業績として評価されている。
9.彼らは油産生能力のとくに優れたボツリオコッカスとオーランチオキトリムという2種類の藻を発見して、その培養・利用法に取り組んできた。その油産生能力は、オーランチオキトリムは霞ヶ浦程度の広さ(2万ヘクタール)があれば日本全体の石油必要量を賄うことができる。
10.これらは植物油とは違って重油相当の炭化水素を作るので、そのまま石油の代替品をして使うことができる。渡辺グループは、つくぼ国際戦略総合特区や仙台市に藻類バイオマス実証プラントを建設するなど活発に活動していて、すでに大型実証プラントで作った油でトラクターや自動車を動かすことまで行っている。
11.2010年6月には藻類産業創成コンソーシアムが設立されて、技術開発、調査、情報交換などを通じて藻類産業の早期確立を目指している。最近では多.くの企業や大学・研究所が参入して技術開発が進められつつあり、雑菌に強いボツリオコッカス株の培養や、油分離を容易にする培養技術の開発など、大きな進展が見られている。
12.2013年には大手重工業数社のチームがボツリオコッカス株を使った燃料工場を東南アジアかオーストラリアに建設する計画を発表した。またユーグレナ社はいすず自動車と共同で、ミドリムシの作る油でディーゼル車を走らせるプロジェクトを始めた。ミドリムシは光合成をする、植物とも動物ともつかない生物で、生産効率は高くはないが軽油相当の油を作る。
13.今のところはまだコストが高く、ガソリン1リットル換算で500円を超えるので広く実用化されるには至っていないが、藻類の作る油が液体燃料として石油用インフラにそのまま載せられるメリットは大きいので、いずれは次世代のエネルギーの本命となるに違いない。実際、次世代を睨んでの諸外国の開発競争は激しく、大型の国家プロジェクトに支えられて研究が進められている。
14.日本政府の意識は低くて、国策がいちじるしく遅れている。そう遠くない将来には、地球が作った石油をとる時代から、藻類を利用して石油を作る時代になる。その流れを適切に見定め、藻類エネルギー技術開発を率先して進めることができれば、日本は世界を先導する国として大きく発展していく。
15.これはエネルギー自給率4%を打開する、たぶん唯一の方策である。これに日木の将来が懸かっていると思えば、どれほど投資をしても惜しくはない。このエネルギー技術を日本のものとして確保し、将来に向けて育てていくためには、今こそ国が思い切った投資をしなくてはならない。CO2削減とか温暖化防止とか、に無駄金を使っているときではない。


yuji5327 at 07:02 

2018年01月27日

カナダの国際会議後、アメリカの大学や製薬会杜を見て回り、5人の大学教授に手紙を出し、雇用を依頼したら、全員がOKだったが、真っ先に返事をくれた教授に惹かれた。

「大村智著:微生物創薬と国際貢献、學士會会報No.922(2017-1)」は参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.1971年3月、カナダで開かれた抗生物質の国際会議に出た後、留学先の下見も兼ねて、約1カ月かけてアメリカの大学や製薬会杜を見て回った。帰国後、5人の大学教授の元へ手紙を出し、研究者として雇ってくれないかと依頼した。すると全員からOKの返事が来たが、条件に違いがあった。年俸1万6千ドルから7千ドルまで、様々だった。電報で真っ先に返事をくれ、ボスドクではなく、「客員研究教授として迎える」と言ってくれた先生に惹かれた。その先生こそ、米コネチカット州にあるウエスレーヤン大学のマックス・ティシュラー教授である。
2.この時の選択が研究人生の分かれ道だった。1971年10月、私はアメリカに出発した。ティシュラー先生は「米製薬大手メルクの中興の祖」とも言われる人物で、70年にウエスレーヤン大学に移籍したばかりのところ、大村氏を招いてくれた。翌72年、先生は米国化学会の会長に就任した。会員16万人を擁する世界最大の学会の会長だから、先生はとても忙しくなり、大村氏が研究室のボスドクや大学院生の研究指導を任されるようになった。
3.研究テーマは先生から与えられた訳ではなく、北里研究所から持っていったテーマを、引き続き研究していた。当時、「脂肪酸の生合成を阻害する物質は発見されていない」と言われていたが、私は北里研究所で同僚の野村節三氏との共同研究で、私が単離し構造を決めていたセルレニンがその性質を持つことを明らかにしていた。渡米して1カ月後の71年11月、米製薬大手ファイザー社に勤めるセルマー博士から電話があった。「ハーバード大学のコンラッド・ブロック教授が私の研究所に来る。紹介するから、セルレニンの話をしたらどうだ」と言った。ブロック教授は1964年、脂肪酸の生合成でノーベル生理学・医学賞を受賞した世界的権威である。
4.車を3時間くらい飛ばして駆けつけ、教授にセレルニンについて説明したら、「本当なら凄いことだ。作用点を明らかにする共同研究をしよう」と誘われ、その後、想定した結果が出たので共著論文を書き上げました。セレルニンは医療用の薬にはならなかったが、脂肪酸の生合成を阻害する唯一の研究用試薬として世界中で使われている。




yuji5327 at 06:51 

2018年01月24日

大村氏の郷里出身の小林一三の「金がないから何もできないという人間は、金があっても何もできない人間である」という言葉を感慨深く思った。

「大村智著:微生物創薬と国際貢献、學士會会報No.922(2017-1)」は参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.アメリカでの客員研究教授の任期は3年だったが、その後もアメリカに残りたいと考え始めていた1972年秋、北里研究所の水之江公英所長から、「秦藤樹教授が定年退職するので、研究室を継いで欲しい。留学を2年に短縮して欲しい」という連絡が来た。
2.帰国を決めたが、貧乏な日本の研究所ではアメリカでの研究レベルを維持できないと思ったので、企業にもプラスになる産学共同研究を提案して、できるだけ多くの研究費を貰って帰国しようと考え、製薬会杜を5〜6社回りをした。申し込んだ全ての企業が研究費の提供を申し出てくれ、中でもメルクは年問2千万円と、他社より1桁近く大きい額(普通の教授の研究費の約10倍)を提示してくれた。ティシュラー先生からも、ご自身が研究所長をしたメルクと組むよう勧められたので、メルクと契約を結んだ。メルクとの契約は3年問の予定だったが、結局、20年続いた。メクチンを開発したので、ティシュラー先生の所に行って本当に良かった。大村氏の郷里出身の小林一三の「金がないから何もできないという人間は、金があっても何もできない人間である」という言葉を感慨深く思った。
3.メルクと契約した際、念頭にあったのが動物専用の医薬品の開発だった。現在ではヒト用の薬と動物用の薬は厳密に区別されているが、当時はヒト用の薬を動物に使うことが多く、動物専用の薬はほとんどなかった。共同研究をしたのは、当時メルクの研究員で、2015年、私と一緒にノーベル生理学・医学賞を受賞したウィリアム・キャンベル博士である。
4、共同研究は、大村氏が自然環境のあらゆる所から放線菌を採取し、様々な方法で分離し、性質を調べ、有望な菌株を約50種、メルクに送る。メルクではキャンベル博士がその菌株を培養して増やし、培養液ごと餌に混ぜ、あらかじめ線虫を経口感染させておいたマウスに6日間食べさせる。その後8日間、普通の餌を与え、2週間たったところでマウスを解剖し、小腸にいる線虫の卵と成虫を一つひとつ数えるという大変な作業だった。
5.翌75年、「送られた菌株の一つから、線虫を殺す物質が出た」と報告を受けた。伊東市川奈の土壌から分離した菌株だった。放線菌が作るこの物質こそ、ノーベル賞受賞に繋がった「エバーメクチン」だった。この菌株が生産する物質は線虫だけでなく、マウスに対する毒性もあるようだったが、改めて調べると、マウスに対する毒性はエバーメクチンと同時に生産される別の化合物が原因と分かった。
6、メルクの化学者たちはエバーメクチンの化学構造に手を加え、寄生虫を殺す効果を高めた「イベルメクチン」を作った。この物質は注射しても、飲ませても、皮膚に塗っても効き目があり、かなり広範囲の寄生虫を駆除する。こうした性質を持つ物質は今までなかったため、「エンデクトサイド」という呼称が付いた。
7.1981年、メルクがイベルメクチンの抗寄生虫薬を発売すると、84年から20年以上にわたり、世界の動物薬市場で売上1位となり、メルクの全製品の中でも売上2位となった。線虫が寄生した牛24頭のうち、半数の12頭に、体重1圓△燭200μgのイベルメクチンを1回、皮下注射し、1カ月後、何もしなかった牛には数万もの寄生虫がいたが、注射した牛の寄生虫の数は0〜数百に激減した。
8.1979年に国際会議でこの成果を報告すると、「通常、抗生物質は何回か投与することが必要だが、たった1回でそこまで効くと、驚かれた。カナダの牧場では、ダニで皮膚がガサガサになった牛にイベルメクチンを皮下注射したら、1カ月後、皮膚はすっかり綺麗になった。体内の寄生虫もいなくなった。
9.イベルメクチンは畜産業や皮革産業に大きく貢献している。また、心臓にフィラリアが寄生した犬にイベルメクチンを投与したところ、寿命を2倍に伸ばすことができた。フィラリアは蚊が媒介するので、犬を飼っている人は、蚊が発生する季節は月に1回この薬を投与する必要がある。今は類似の薬も出ている。
10.1981年、イベルメクチンを動物薬として発売すると、メルク社は「これをヒトに応用し、熱帯の寄生虫病であるオンコセルカ症の治療薬の開発に着手した。1987年、ヒト用の薬「メクチザン」が認可された。オンコセルカ症は河川盲目症ともいい、ブヨが媒介する線虫によって感染する。寄生した成虫は、1日に千匹もの幼虫を生み、それが体内に広がり、皮下にコブを作って激しいかゆみを起こす。目に入った幼虫が死滅すると、失明に繋がり、また皮膚に移った幼虫が死滅して激しいかゆみを引き起こす。
11.感染危険地域は西アフリカや中南米で、1億2千万人の人が住んでいる。1987年の感染者は1千8百万人、失明患者は77万人、感染地域を持つ国は36力国だった。1973年、ロバート・マクナマラ世界銀行総裁が、「西アフリカの人々の健康と経済的な見地から、最も重篤な病気はオンコセルカ症である」と宣言すると、世界保健機関(WHO)がオンコセルカ症撲滅運動を始めた。当初は川辺にいるブヨの幼虫を殺虫剤で殺す作戦だったが、広大な西アフリカ全土に殺虫剤を撒ききれず、成功しなかった。
12.登場したのが、「メクチザン」で、1987年、メルクはこの薬の無償供与を発表した。この薬は安定で、副作用も少なく、医師の手を借りる必要はなく、年1回投与すれば1カ月後には目や皮膚の線虫が消える。2004年、無償供与先の一つ、ガーナを訪れた時、「メクチザンのおかげでかゆみがなくなった」と喜ぶ声をあちこちで聞いた。一番感動的だったのは、1人の盲目の男性が子供に手を引かれて私の所に来て、「私の目はもう見えないけれど、子供に病気をうつさずにすむ。そのことが非常に嬉しい」と言ってくれたことである。
13.その後、「イベルメクチンはリンパ系フィラリア症にも効く」と判明した。リンパ系フィラリア症は、種々の蚊が媒介する線虫によって引き起こされる。感染するとリンパ系がダメージを受け、象皮病、男性性器障害などを発症する。感染危険地域は、アフリカ、中南米、アジアなど広範囲にわたり、13億人以上の人が住んでいる。2000年の感染者は1億2千万人に達し、感染地域を持つ国は83力国に及ぶ。日本でも平安時代から発症例が確認されているが、1978年に「ジエチルカルバマジン」という薬によって撲滅された。
14.この薬は何回も飲む必要があり、アフリカでは撲滅できなかった。「メクチザン」を「アルベンダゾール」という合成抗寄生虫薬と共に年1回投与すればいいので簡単である。2000年、メルクは両方が蔓延する地域に、「メクチザン」を無償供与した。効果は顕著に表れ、「リンパ系フィラリア症は2020年までに、オンコセルカ症は2025年までに撲滅される」と予測されている。
15・糞線虫症は、土壌中にいる幼虫が皮膚から体内に侵入し、肺や腸を行き来し、肺炎や吸収障害などを引き起こす。感染者は世界に3500万人以上、国内にも沖縄や奄美を中心に数万人いる。日本ではどちらの病に対しても、イベルメクチンを用いた駆虫剤「ストロメクトール」が認可されている。最近、「マラリア、結核、リーシュマニア症などを媒介する昆虫も駆除する」という論文が発表された。イベルメクチンの可能性はさらに広がる。




yuji5327 at 06:53 

2018年01月20日

CNTは日本発の素材だが、単層では価格が高く普及せず、多層では中国に大きく後れている。日本では全体の世界シェアで日本は2割にとどまる。

「荒木宏香(編集部)著:中国メーカーが急成長、単層、多層で異なる市場、
エコノミスト、2017.4.18」は参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.カーボンナノチユーブ〔CNT)市場で中国がシェアを拡大させている。炭素のシートが筒状になったCNTは単層と多層の2種類があるが、主に市場が拡大しているのは多層である。矢野経済研究所によると、世界の多層CNTの市場規摸は、2014年の590tから20年には1320tとなる見通し。一方、単層は、14年は0・8t、20年でも15t程度の拡大にとどまる。
2.市場をけん引しているのは、中国のリチウムイオン電池(LIB)だ。中国は、20年までに電気自動車(EV〕などの環境対応車を500万台普及させることを目標とし、補助金政策で内需を拡大させてきた。現在は世界最大のEV市場に成長している。中国では、EVに搭載するLlB部材の多くを国内メーカーが供給しており、CNTはLIBの導電助材に使われる。これに目を付けた中国CNTメーカーが、多層CNT市場を拡大させてきた。CNTを用途別に見ると、7割がLIB向けである。
3.中国でLIB向けに多層CNTが採用され始めた13年以降、急激に需要が拡大。LlB白体の需要増加に合わせて14年と15年は倍々に推移し、世界のCNT全体の市場シェアは、中国が5割を占めるまでになった。
4.単層と多層の主な違いは、性能の差である。単層の方が全体的に導電性などが良い。多層では中国が先行しているのに対し、単層では日本が生産能力や合成技術で先行している。
5.単層CNT市場が広がらない大きな要因が価格である。多層が1kg当たり3万円以下なのに対し、単層は1kg当たり20万〜100万円以上と、圧倒的に高い。CNTは、製造に時間がかかるうえ、製造工程で不純物が入るなど純度の制御が難しく、単層の場合、金属型と半導体型の2つの型に分離させる必要がある。製造工程の多さや技術的な難しさから、価格が高い単層CNTは市場が広がってこなかった。
6.カ一ボンナノチューブ〔CNT)は、炭素シートを筒状に丸めた繊維状物質である。1991年、当時NECに所属し、現在は名城大学教授の飯島澄男教授が発見した。直径は0.3~100ナノ(ナノは10億分の1)辰如▲掘璽箸1枚の単層と、2層以上のシートが同心円状に重なった多屠の2種類がある。軽さはアルミの約半分、引っ張り強度は鋼鉄の100倍、熱伝導性は銅の10倍と、多くの優れた特性を備えながらも、その利用は限定的だった。しかし近年、大量生産と低コスト化に一定のめどが立ったことや、企業のナノ材料の取り扱い技術が向上したことで、多くの分野で利用が進んでいる。
7.CNTは日本発の素材であるにもかかわらず、単層では価格が高く普及せず、多層では中国に大きく後れを取っている状況である。日本では、昭和電工が中国のLIB向けに多層CNTを供給しているものの、全体の世界シェアで日本は2割にとどまる。
8.既に材料の供給網が確立した中国市場に対し、日本が新たに参人するのは簡単ではない。矢野経済研究所の遠藤光司上級研究員は「今から中国のLIB向けに活路を見.いだしても、価絡競争に巻き込まれるだけだ。日本は海外の安価な多層CNTとは異なる分野で市場を開拓していかなければならない」と話している。
9.日本のCNTも、近年は本格的な実用化に向け動き出している。単層CNTを製造する日本ゼオンは17年、産業技術総合研究所、精密加工メーカーのサンアローと、CNT複合材料研究拠点の設立を発表。実用化を加速させ、3年以内に製品を市場に出す。
10.2016年にはミズノと新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、CNTを利用した衝撃に強い新素材を開発、まずはゴルフクラプに応用する。日立造船も16年、生体情報を収集するウエアラブル(身に着けられる〕デバイスとして「CNTニット」を開発するなど、用途開拓を進めている。日本のCNTを普及させ、優位性を高めるためには、CNTと組み合わせてどう新市場を作れるかがカギとなる。



yuji5327 at 06:45 

2018年01月18日

世界的な排出ガス規制で車体の軽量化が不可欠となり、欧州を中心とする自動車メーカーは、既にCFRPに概き換えを進めている。

「荒木宏香(編集部)著:中国メーカーが急成長、単層、多層で異なる市場、
エコノミスト、2017.4.18」は参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.SiC繊維は、ケイ素〔Si)と炭素(C)をほぼ1対1で結合させた繊維のこと。主に、SiC繊維をセラミックと焼き固めた複合材料である「セラミックス複合制料(CMC)」として使われている。ニッケル合金に比べ.重さが3分の1、耐熱温度が20%高く、強度が2倍などの優れた性能を持つ。航空機のエンジン向けの他、自動車、鉄道、ロケットや、ガスタービンなどのエネルギー機器への用途拡大が期待されている。世界シェアの6割を握る日本の炭素繊維メーカーが、自動車向けの炭素繊維強化樹脂CFRP)の市場拡大をにらみ、投資や開発を加速させている.
2.世界シェアの6割を握る日本の炭素繊維メーカーが、自動車向けの炭素繊維強化樹脂(CFRP)の市場拡大をにらみ、投資や開発を加速させている帝人は2017年1月、買収金額として過去最大の約840億円を投じ、白動車向け複合材料成形メーカーの米コンチネンタル・ストラクチュラル・プラスチックス〔CSP)を買収した。北米自動白動車市場に強力な販売チャンネルを持つCSPを通し、CFRPなどの炭素繊維複合材料事業を本格化させる。
3.三菱レイヨン(現三菱ケミカル)も17年3月、2月に発売されたトヨタ白動車の新型プラグインハイブリッド車(PHV)「プリウスPHV」のバックドアの骨格に、同社のCFRPの中問材料が採用されたと発表した。東レも16年3月、既存のCFRPより4割軽い炭素繊維複合材料「CFRF」を開発。CFRPに比べて強度は劣るが、成形しやすいメリットがあるという。
4.富十経済によると、世界のCFRPの需要は、15年の1.2兆円から30年には4.5兆円と、3倍以上に拡大する見通しである。CFRPの最大の特徴は、鉄より軽く、ねじれなどの変形に強いことだ。この特性を生かし、これまで航空機や風力発電などで主に使われてきたが、自動車分野への用途はなかなか広がってこなかった。
5.その要因が価格と成形時聞である。CFRPの成形は、炭素繊維に樹脂を含浸させたシートを積層し、加熱・加圧して固めるオートクレープ方式が一般的だが、この工程ではコストがかさみ、大幅に価格が跳ね上がる。樹脂の硬化は数時間かかるものもあり、大量生産できない。生産性の低さは価格に直結するため、CFRPの量産化は硬化時問をいかに短縮するかが最大の課題だった。
6.この事情を大きく覆したのが、13年に登場した独自動車メーカーBMWの電気自動車(EV)である。高価格であるが故、それまでCFRPの採用は高級車に限られていたが、大衆車として初めて車体の主要骨格に採用。三菱レイヨンの炭素繊維の原料や技術が生かされた。1台当たり約100kgに相当する大量の炭素繊維を使用しながらも、価格は500万円程度に抑えたことで、業界関係者に大きな衝撃を与えた。従来のオートクレープ方式ではなく、あらかじめ成形した炭素繊維に後から樹脂を注入するRTM方式を採用し、成形時問を劇的に短縮、低価格を実現した。
7.同社の登場を契機に、自動車メーカーはCFRPの採用を積極的に進め、技術開発も加速した。現在は、硬化時聞を短縮できる樹脂を新開発したり、異なる特性の樹脂を適用するなどして、数分で成形できるまでになり、生産コストは現実的な水準に近づいている。
8.一方で、従来の主要素材である鉄を供給する鉄鋼メーカーも、自動車の軽量化に応えるため、鋼材の一部を鉄の3倍以上の強度である超高張力鋼板(超ハイテン)などに置き換えを進めている。また、鉄は価格が安いため、価格では圧倒的に鉄鋼メーカーが有利である。日系目動車メーカーは依然としてハイテンでの軽量化が中心である。
9.世界的な排出ガス規制で車体の軽量化が不可欠となるなか、厳しい基準の欧州を中心とする自動車メーカーの問では、既にCFRPに概き換えを進める動きが主流になりつつある。自動車向けCFRP市場が現実味を帯び、本腰を入れ始めた炭素繊維メーカーは、既存の素材に対する優位性をどう確立できるかが今後重要となる。




yuji5327 at 06:42 

2018年01月16日

植物を原料とした新素材「セルロースナノファイバー〔CNF〕が、量産化に向けいよいよ動き出した。2017年4月、日本製紙は16億円を投じて、石巻工場に新たなCNF生産設備を稼働させる。

「吉田智(ジャーナリスト)著:セルロースナノファイバー、紙おむつ、化粧品、自動車、1兆円市場にらみ量産化へ、
エコノミスト、2017.4.18」は参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.植物を原料とした新素材「セルロースナノファイバー〔CNF〕が、量産化に向けいよいよ動き出した。2017年4月、日本製紙は16億円を投じて、宮城県の石巻工場に新たなCNF壁産設備を稼働させる。年間生.産能力は500トンで世界最大級。用途は紙おむつ向けの防臭シート材料だ。CNFの表面に.消臭効果のある金属イオンや金属ナノ粒子を容易に付着できる特性を生かした。石巻工場に続き、17年9月にも島根県の江津工場に、約11億円で年間生雍能力30トンの食品や化粧品向けの添加剤などの用途を見込むCNF量産設備を設置する。
2.業界首位の王子ホールディングス〔HD〕も16年11月、徳島県の富岡工場に年間生産能力40トンのCNF実証設備を立ち上げ、年明けから企業に向けてサンプル出荷を本格化した。
3.大王製紙は16年、愛媛県の三島工場にCNFの実証プラントを構えたばかりだが、17年4月に早くもCNF配合のトイレクリーナーを販売。中越パルプ工業も17年4月、鹿児島県の川内工場内に14億円を投じて、竹由来のCNFに着目した年間生産能力100トンのプラントの操業を開始するなど製紙メーカーは本格生産に向けた設備投資を加速させている。
4.CNFとは.紙の原料となるパルプをナノサイズ〔ナノは10億分の1)までほぐした物質である。日本が先行する形で1990年代後半にCNFの研究が始まった。実用に至ったのは最近で、化学メーカーの第一工業製薬の協力を得て、三菱鉛筆が15年、CNFを増粘材としてインクに配合したボールペンを、米国で先行発売して日の目を見た。粘度を高めたCNFを使うことで、従来配合していた増粘材の量より少量で済む。16年からは日本でも展開している。
5.紙おむつにボールペン。一見すると関連がなさそうな用途展開の源泉にあるのが、CNFのもつ変幻自在の性質である。樹脂に混ぜれば強くて軽い複合材ができ、無色透明にできるのでフィルムにも使える酸素を遮断する性質は食晶の包装材である。粘度調整の自由度は塗料や化粧品にも向く。体内に入れても害がないため、人工血管や食品にも可能性が広がる。
6.こうした市場の可能性を見据え、経済産業省は、2030年までにCNF関連市場を1兆円まで広げる構想を掲げている。経産省だけではない。林野庁は、林業再生の切り札としてCNFに熱視線を向ける。国土の7割を森林が占める日本では、CNFの原料になる木材などの植物バイオマスが豊富に手に入る。戦後に造成された人工林が利用期を迎えつつある一方で、国内で消費されるパルプ・チップ木材のうち国産材が占める割合はわずか2割程慶。CNFが果たす役割は大きい。
7.地域活性化の起爆剤としても期待が集まる。製紙業の盛んな静岡、四国、九州、そして各地の山間部でCNF関連のフォーラムが次々と立ち上がった。CNF実用化の一端を担う京都大学の地元であり、素材メーカーや加工業が集積する関西では、近畿経済産業局が中小企業を巻き込んで新規事業の旗振り役を務める。
8.化学メーカーの参人も相次いでいる。旭化成はCNFによる不織布の製品化を目指す。.花王は界面活性剤の知見を生かし、樹脂と複合しやすいようCNFの表面を疎水化する技術を確立した。ユニチカはCNFで強化した樹脂「ナイロン6」の実用化を進める。第一工業製薬は、インクに次いで化粧品向けの増粘剤を開発中。粘度を保ったゲル状のままスブレー噴できるのが特徴である。




yuji5327 at 06:51 

2018年01月14日

製紙メーカーがセルロースナノファイバCNF)に本腰を入れるのは、低迷しつつある製紙業界にとって起死回生の好機だからである。

「吉田智(ジャーナリスト)著:セルロースナノファイバー、紙おむつ、化粧品、自動車、1兆円市場にらみ量産化へ、
エコノミスト、2017.4.18」は参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.製紙メーカーがCNFに本腰を入れるのは、単にパルプの扱いに長けているという理由だけではない。製紙業の生産品目は、新聞用などの「紙」と段ボール原紙などの「板紙」に大別される。ネット通販の隆盛を受けて堅調な板紙に比べ、紙の市況はベーパーレス化で低迷しつつある。製紙業界にとってCNFは起死回生の好機である。
2.商業化への道のりには大きな障壁が2つある。1つは生産コストの高さ、もう1つは現状では用途が限られている点である。生産コストがかさむのは、パルプをナノサイズまで3.「解繊」は、という工程で莫大な電力を要する。原料のバルブは1キロ当たり50〜100円と安価だが、解繊を経るとコストが数干〜1万円に膨れ止がる。CNFが背中を追う炭素繊維は1キロ当たり3000円前後だ。経産省はCNFの価格を、まずキロ当たり1000円、最終的には500円程度まで抑えるのが目標である。
3.コストを下げるカギは、いかに繊維の構造を保ったままナノ化するかという点にある。従来は機械的手法といって、電力を大量に消費し、高速で細かくほぐす方法である。これに対し.近年脚光を浴びているのが、東京大学の磯貝明教授らが開発した「TEMPO触媒酸化法」に代表される化学的手法だ。TEMPOと呼ばれる化合物を触媒として使い、繊維同士の結合を弱めることで、わずかな力でナノ化でき.物理的手法に比べて消費電力も少.ない。日本製紙の防臭シートで使われたのもこの方法である。
4.用途拡大については、現時点で製品化された実例がせいぜいボールペンとトイレタリー製品のみである。あらゆる用途の可能性があるCNFだが.各企業が自社に適した用途は何なのか、手探りの状況である。
5.1兆円という数字に向けて経産省が最も期待するのは、炭素繊維が歩.んだ航空機や自動車部材への採用である。特に自動車業界への用途拡大が本命とされる。
6.CNFは、単体では加工しづらく、他の材料に混ぜることで格段に強度が増す。その筆頭が樹脂との複合である。自動車の内外装に使われている樹脂がCNF複合樹脂に切り替わり、.更に金属部品からの代替が実現すれば、1兆円という数字は現実味を帯びてくる。CNFとゴムとの複合材料、透明性を生かしたガラス代替材料といった可能性も秘める。自動車の車体丸ごとがCNFの採用領域といっても過言ではない。CNFで車体重量を1割削減する環境省のプロジェクトも発足した。デンソーやトヨタ紡織が参加するなど、自動車業界も動き始めている。
7.コスト削減の解決策も見えてきた。京都大学の矢野浩之教授が、王子HD、日本製紙、星光PMCの研究者らと共同で開発したCNF複合樹脂の製法「京都プロセス」では、コストを従来の10分の1に縮小できる。これはナノ化と複合化を一度に行う方法で、実証プラントまで建設したのは世界初である。従来は、まずパルプを化学的もしくは機械的に解繊してCNFにし、次に樹脂と混ぜる2段階の方法が主流だった。
8.日本が世界に誇る炭素繊維は、商用化までにほぼ半世紀を費やした。炭素繊維との違いは、業界の垣根を越えて多.くのプレーヤーの協力が求められている点である。CNFは資源に乏しい日本が素材大国に躍り出るカギを握る。




yuji5327 at 11:15 

2018年01月08日

電気自動車は、エレクトロニクス製品と同じような製品になり、生産方式においても、電子製品の場合と同様に水平分業に移行するが、、この変化に日本企業は対応できるか?

「野口悠紀雄著:リレーも自動車産業も日本の強さは擦り合わせ、
週刊ダイヤモンド、2017.09.09」は参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.今年の世界陸上競技選手権大会で、日本チームは男子4×100mリレーで銅メダルを獲得したニュースは、日本の自動車産業を連想させた。リレーも自動車産業も、現在の優位性を将来も維持できるか、という疑問になった。
2.リレーは、バトンの受け渡し技術が重要な役割を果たし、個々のランナーがいかに優れていても、受け渡しに失敗したら、勝つことはできない。日本の自動車産業が強い理由も、類似で、部品を組み立てていく過程においては、バトンタッチのような高度の精度を要求される。同じリレーでも、バトンタッチの相対的重要度が低いと、日本は弱い。男子4×400群リレーでは、日本は決勝に進出できなかった。
3.製造業の場合も、擦り合わせの相対的重要度が低下すると、日本の国際競争力は低下する。その好例が、エレクトロニクス産業で、特にIT革命以降、組み立てにはそれほど高度の技術を必要としなくなった。部品の製造は極めて重要だが、それらを組み立てれば容易に製品ができるようになった。このため、新興国の工業化に伴って、エレクトロニクス産業の主力は、新興国、特に中国に移った。
4.この結果、生産の方式が変わった。1980年代までの製造業では、一つの企業または企業グループで部品生産から組み立てまでを行う「垂直統合」が中心的だったが、90年代になると、「水平分業化」が進展した。これは、世界中のさまざまな企業で部品の生産を行い、市場を経由してそれらを購入する方式である。
5.パソコンにおいては、90年代まで、日本国内では国産機がほとんどだった。中でも、NECの9801が国民機といわれたほど高いシエアを実現したが、水平分業化が進むと、NECも含めて日本メーカーの優位性は消滅した。
6.それまで垂直統合でPCを生産していたアップルは、iPodの生産から水平分業に転換し、新興国の企業を活用して低コストでの生産を行い、高い利益を実現するようになった。日本はこのような流れに追い付くことができなかった。
7.自動卓産業においては、日本が依然として強いのは、エレクトロニクス産業とは違って、組み立てが簡単ではないからである。これは、内燃機関を用いる自動車が、機械的に複雑な製品で、特に変速機は極めて複雑な部品である。ハイブリッド車に至っては、動力系統が2つあるので、さらに複雑になる。エレクトロニクス産業のように、部品を集めれば簡単に最終製品ができるというものではない。
8.こうした技術体系が将来も続くかどうかは、分からない。電気自動車(EV)は、個々の部品は技術的に高度なものだが、それらを組み上げて製品にするのは比較的簡単であるので、PCと同じように水.平分業化する可能性があり、PCと同じ事態が生じる可能性は十分ある。
9.フランス政府は、2040年までに国内におけるガソリン車およびディーゼル車の販売を禁止すると発表した。イギリス政府も、同様の方針を発表した。与党・保守党は、ほぼ全ての自動車とバンのゼロエミッションを50年までに実現すると公約しており、今回の措置はその計画の一環である。ドイツの一部の都市も、ディーゼル車の禁止措置を検討中である。
10.ドイツでは、30年までに、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関を搭載した新車の販売禁止を求める決議を議会が16年に採択した。ノルウェーやオランダでも、25年からガソリン車やディーゼル車の新車販売や登録を禁止する動きがある。これらの措置には、EVの開発を促す狙いがある。また、中国もEVを奨励している。動機は各国によって異なる。ヨーロッパの場合には、二酸化炭素(CO2)の排出削減が目的とされている。
11.中国の場合には、電力が割安であるが、ガソリンスタンドを広い国土の隅々まで普及させるのは困難だが、電力であれば広範な地域で利用可能という事情がある。もちろん、充電スタンドなどのインフラストラクチャーの整備が必要なので、ガソリン車やディーゼル車が直ちに消滅してEVに代わるわけではないが、大きな流れが変わったことは間違いない。
12.自動車メーカーは、EVへの転換を迫られる。スウェーデンのボルボは、19年以降に発売する全車種を電動化する方針を表明した。ドイツのBMWも、全てのブランドにEVを用意すると発表した。
13.アメリカのEVメーカーであるテスラは、時価総額でゼネラル・モーターズ(GM)を抜き、時価総額で全米首位の自動車メーカーとなった。16年のテスラの販売台数は、7.6万台だった。これは、GMの100分の1以下で、EVに対する期待がに大きい。
14.EVは、エレクトロニクス製品と同じような性格を持つ製品になり、生産方式においても、電子製品の場合と同様に水平分業に移行する可能性が高いが、問題は、このような変化に日本企業が対応できるかどうかである。男子4×100mリレーについても、日本の優位性がいつまでも継続できる保証はない。他国も日本と同じようなバトンタッチの技術を習得すれば、日本の優位性は崩れてしまう。
15.自動車の場合、EVになれば、重要なのは個々の部品であり、生産方式の転換である。自動車は、EVへの移行以外にも、人工知能(AI)による自動運転という最先端の情報技術だが、日本企業が不得手な分野である。
16.シェアリングエコノミーの進展によって、自動車の使い方が、所有中心から利用中心へと大きく変化する。それに適したハードウェアを追求されなければならない。このような変化に対応するには、社内の技術人材のシフトさせる必要がある。これまでの日本の自動車メーカーで中心だったのは、機械工学のエンジニアで、現在でも会社の意思決定に重要な影響力を持っている。このような変化を実現するには、他の分野の専門家が中心になる必要がある。日本の自動車メーカーが、要求される人材シフトに対応できるだろうが、日本の自動車産業の命運を決める。




yuji5327 at 06:39 
池上技術士事務所の紹介
261-0012
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池上技術士事務所(代表:池上雄二)の事業内容
以下のテーマの技術コンサルタント
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のテーマについて、
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工学博士、技術士(応用理学)、
公害防止主任管理者、
騒音防止管理者の資格で
お役に立ちたいと思います。

池上湖心 プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山に師事
書象会に所属、書象会理事
審査会々員
○作品展の開催
・主宰している「さざ波会」
 作品展を毎年8月開催
(於:稲毛ギャラリー)
・土曜会(グループ展)
 作品展を毎年10月開催
(於:銀座大黒屋)
○公募展の受賞、入選
・日展入選
・読売書法展(現在理事)
 読売奨励賞
 読売新聞社賞
・謙慎展(現在理事)
 春興賞の受賞:2回
○書道教室
・学生:月曜日
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