新技術

2020年01月13日

現在、中国の行政エリアの光ファイバーと4Gの開通割合は98%を超え、農村部も都市部と同じ速度の通信サービスを受けている。人里離れた地域に住む人々の生活様式も変えた。


「莫邦富(作家・ジャーナリスト)著:中国の驚くべき通信大国ぶり、秘境の少数民族もネットで英語学習 週刊ダイヤモンド 2019.12.7」は面白い。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.最近読んだ中国関連のニュースの中で非常に印象に残ったのは中国通信事情に関するある報道である。その記事はインターネットが山奥に住む少数民族の日常生活に激変をもたらしたことを紹介している。
2.中国とミャンマーの国境付近では、中国で人口が比較的少ない少数民族の一つ「トーロン族」が、焼畑農業で暮らしていた。その場所は深い山と深い谷に囲まれているため、長い間、世間とは隔絶され、原始社会のような生活である。高黎質の雪山は1年中雪に閉ざされ、独竜江郷は1年のうちの大半は外界とほとんどつながりを持たない。村人たちもそれぞれ「山頂」に散らばって住んでいるため、これまでは重要な話し合いがあれば「爆竹を鳴らして伝える」ことしかできなかった。
3.2004年に電話が開通し、16年に4Gのネットワークが敷かれてから、村人たちはインターネットを通じて果物や薬草を販売できるようになっただけでなく、さらに英語を学習したり、医療専門家に遠距離診察を頼んだりしてきた。まさにインターネットの登場で、トーロン族たちは現代文明を受け入れる環境ができた。
4.インターネットなどの通信分野を司る工業情報化部の統計データによると、19年7月までに中国の4G通信基地局は456万カ所を超え、世界一となった。現在、中国は世界規模で最大の情報通信網をすでに構築し、全国で98%の行政エリアに光ファイバーと4Gネットワークが通じている。
5.辺鄙な山奥にまで通信網が敷かれていることについては、十数年前に私が身をもって体感してきた。07年、13回に分けて放送されたNHKのドキュメンタリー番組「NHKスペシャル大型シリーズ『激流中国』」で、08年3月に初回放送したこの番組を取材するために、雲南省の山間部と中国西北部、甘粛省に近い寧夏回族自治区の西吉県を、1カ月以上かけた。特に、西吉は農民の年収が当時の為替レートで約1万5000円前後で、最貧困地域だった。
6.当時、日本を出る前に、事務所のスタッフたちに、2カ月間山奥に行くので、音信不通になる可能性が非常に大きい。そのことを覚悟する旨を頼んだ。しかし、実際山奥に入っても、それほど通信の不便さを感じなかった。どんな辺鄙なところへ行っても、携帯電話の画面に電波の強さを示すアンテナが数本立っている。誰も住んでいない山奥ではさすがに電波は入らないが、高いところに立つと、どこからともなく電波が入った。
7.そのお陰で黄土高原の山奥にいながら、日本のテレビ局、香港の国際時事誌、アメリカのラジオ局から電話によるインタビューを受けることができた。取材の合間に、久しぶりに体感した農山村の日常、景色、においに新鮮さを覚え、携帯電話のショートメッセージ機能を使って、それらを中国語でエッセイ風に記録することも試みた。寧夏の農村に滞在したときに泊まったホテルでは、さすがにインターネットに接続できなかった。毎晩、町のネットカフェまで行かざるを得ない。好奇心旺盛な若いやじ馬たちに囲まれ、持ち込んだ自分のノートパソコンを使ってネットにアクセスすると、後ろにすぐに人垣ができ、「デザインがいい」と感嘆の声が聞こえた。
8.中国のネットワークー無線ネットワークにしろ、固定ネットワークにしろ、それは、現在世界で最も大規模に構築されているネットワークだ、という北京郵電大学の教授のコメントを読みながら、2Gから3Gに移行していた時期の中国のネット事情を思い出した。1978年の改革開放から今世紀初めまで、中国の通信業は約20年ほどかけて、03年に固定電話普及率を世界平均に追い付かせた。しかし、このとき新しい問題が発生した。農村の電話普及率は平均よりはるかに低く、都市のわずか3分の1程度で、しかもその差は開き続けていた。広大な農村が発展の落ちこぼれにならないよう、04年、農村で正式に電話開通の幕が切って落とされた。
9.6年間の努力を経て「全農村への電話敷設」プロジェクトは大きな進展を遂げた。10年、チベット高原で最も辺鄙な村落と見られた、電気なし、道路なしの1000以上の村が世間と隔絶された歴史に終わりを告げたことにより、中国全土の行政エリアに全て電話が通じるようになった。
10.04年に始まった「農村の電話開通ブロジェクト」が、電話線を通じて農民が外部とコミュニケーションできるようになったきっかけなら、15年に始まった「電気通信普及サービステストブロジェクト」は、光ファイバーや4Gの世界を農民に披露した。
11.中国「第12次5力年計画」(]1〜]5年)以来、光ファイバーや4Gに代表されるブロードバンドネットワークは、中国の都市部やその周辺地区で全面的に展開された。一方で、農村は再び通信網の発達が立ち遅れる危険に直面した。このため、中国政府は13年「プロードパンド中国」戦略を発表し、ブロードバンドを電気通信普及サービスの範囲に入れることを提起。農村のブロードバンドへのアクセス問題を重点的に解決した。
12.現在、中国の行政エリアにおける光ファイバーと4Gの開通割合は98%を超え、しかも農村部も都市部と基本的に同じネットワーク、同じ速度の通信サービスを受けている。電気通信の普及サービスは、人里離れた地域に住む人々の生活様式も根本から変えた。情報通信サービスの普及は、脱貧困という困難な問題の解決に大きく寄与しただけではなく、中国国民の知る権利の普及と維持にも貢献している。


yuji5327 at 06:48 

2020年01月06日

目を開けたら立体的な世界が見える。平面に描かれた絵画に奥行きを感じる。こんな日常的な出来事の背景で脳が複雑な仕事をしている。


「藤田一郎(大阪大学大学院生命機能研究科教授)著:見たものの奥行きが分かる脳内メカニズムの多様性、週刊ダイヤモンド2019・11・30」は面白い。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.世界は空間的に3次元である。個々の物体もそれが配置されている空間も私たちには奥行きを持った立体的なものとして見える。当たり前のことのようだが、そうではない。奥行きの感覚は、私たちの脳の働きによって初めて実現する素晴らしい体験である。
2.「見る」ことの最初のステップは、眼球の内面を覆つ網膜が光を受け止めることから始まる。網膜は薄い神経組織であり、光をキャッチする視細胞はその一番奥を敷き詰めている。一つ一つの視細胞は、外界の特定の方向からやって来る光を受け止め、光の波長と強度によって反応を変える。つまり受け止めた光の方向、波長(色の知覚の元になる)、強度〔明るさの知覚の元になる)の情報を明示的に持っている。
3.ところが、個々の視細胞は自分が受けた光.がどのくらい遠くからやって来たかを知らない。本誌の誌面から反射してくる光も、部屋の壁から反射してくる光も、窓の向こうの遠くの木から反射してくる光も、皆同時に日の中に入ってきて視細胞に反応を引き起こす。
4.光の速さにとってみれば、これらの物体から目までの距離の間に違いはないに等しく、個々の視細胞の反応は光の発信地からの距離の情報を含んでいない。このような網膜からの情報を出発点としながら、私たちは奥行きを感じることができる。脳が情報処理をした結果、奥行きの感覚をつくり出している。
5.これが可能なのは、網膜に投影された像が外界の奥行き構造を反映した特有の光の分布を持つからである。奥行きの情報は投影像「画像的な特徴」の中に隠されている。視細胞は単独ではその特徴を捉えることができないが、多数の視細胞の活動はその特徴を反映している。
6.脳がその情報を読み出し、目の前の情景の奥行き構造を読み解くことで、世界が立体であるという感覚が生じる。網膜に映つた像が持つ奥行きを知るのに役立つ特徴は「與行き手掛かり」と呼ばれる。
7.奥行き手掛かりには豊富な種類がある。その多くは、左右の目それぞれにおける網膜像に含まれている。片方の目で見ても世界の立体構造をおおむね知ることができる。単眼立体視ができるのはそのためである。例えば、前後方向に延びる、平行な直線は、網膜像では遠くになるほど直線間の隔たりが小さくなり、一点に向かって収束していく。
8.この手掛かりは「線遠近」と呼ばれ、さらに、遠くのものはかすんで見え(大気遠近)、また青みを帯びて見える(色彩遠近)手がかりもある。幾何学的な手掛かりとかすみの手掛かりは、広い空間における奥行きを知覚するのに役立つ。
9.近い距離における奥行きを知るのに有用な手掛かりの一つは「テクスチャー勾配」である。多くの物体は表面に特有の凹凸を持ち、往々にして繰り返し模様となっている。物体表面で繰り返される凹凸に由来する視覚的特徴はテクスチャーと呼ばれる。テクスチャーを持つ面が奥行き方向に広がると、その構成要素は距離に従って変化する。一例を挙げると、石畳の上に立ったとき、遠くにあ.る石ほど、小さく、ひしゃげ、間隔が詰まって見える。
10.このテクスチャーの勾配から、石畳が、半たんな道なのか坂道なのか、どのくらい急な坂なのかなど、石畳の立体的な様子を知ることができる。遮蔽〔奥の物体の輪郭が見えない)、ぼけ〔注視点の前後の物体はぼけて見.える)、陰影やハイライト(出っ張った物体の下には影ができる、ガラスや金属の表而にはその立体構造に従ったハイライトを生じる)なども単眼立体視における奥行き手掛かりである。これらの奥行き手掛かりは静止した像の中に含まれており、絵画に描き込むことができるため、まとめて「絵画的奥行き手掛かり」と呼ばれる。
11.単眼立体視に加えて、両方の目を使って初めて奥行き感を得る能力も私たちは持っている(両眼立体視)。通常、立体視とか3Dビジョンとかいうときにはこれを指していることが多い。この感覚を持っていることは、単に片方の目を閉じたり開いたりするだけで簡単に確かめることができる。片方の目を閉じるとそれまで感じていた物体と物体との間の奥行き方向の距離が消え、閉じていた目を開けると、その瞬間に再び奥行き方向の距離が生まれる。
12.個々の物体には厚みがあり、空間の中で容積を占めていることが感じられる。両眼立体視による奥行き感覚は、単眼立体視によって奥行き順序や情景の立体横造が分かることとは別ものである。
13.両眼立体視において利用されている奥行き手掛かりは両眼視差である。私たちの右目と左目は横に6-7cm離れているため、それぞれの目に映る外界の像の間にはわずかなずれがある。このずれは両眼視差と呼ばれ、ずれの量と方向は対象物の奥行き位置に依存しているため、奥行きを知る手掛かりとなる。
14.両眼視差は両方の目からの情報を使うことで初めて算出することができる。3D映画は左右の目に両眼視差に対応する水平ズレを付けた映像を投影することで実現している。また、オートステレオグラムでは、両眼視差が生じるように、その繰り返し模様に工夫が施されており、両眼融合するとビビッドな立体図形が浮かび上がる。
15.ヒトの大脳皮質の少なくとも4分の1という広大な領域が視覚機能に関わる。後頭葉にある1次視覚野を出発点として頭頂葉、側頭葉を含む広い範囲へと情報が送られる。これらの領域のほとんどが奥行き惑覚に関わる。どの領域が奥行き感覚のどの側面に貢献しているかの探求が進んでいるが、近年、情報通信研究機構の番浩志博士らの研究により、V3Aと呼ばれる領域で絵画的奥行き手掛かりと両眼視差の情報処理の統合が進むことが、明らかになっている。目を開けたら立体的な世界が見える。平面に描かれた絵.画に深々とした奥行きを感じる。こんな日常的な出来事の背景で脳が複雑な仕事をしている。


yuji5327 at 06:51 

2019年12月25日

サービス産業の生産性上昇率が製造業に比べて低い理由は、生産と消費の同時性の制約があるためである。

「森川正之著:サービス産業におけるAI活用と生産性、學上會会報No.939(2019-)は参考になる。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.日本経済は完全雇用下の低成長という状況にある。有効求人倍率は約1.6倍と半世紀ぶりの高水準で、労働力不足が深刻化している。近年の実質経済成長率は平均1%程度にとどまるが、潜在成長率つまり日本経済の実力を若干上回っている。労働力人口が減少する中、潜在成長率を高めるためには生産性を引き上げる必要がある。日本の生産性水準は米国の約3分の2、G7諸国中最低であり、生産性向上の余地は大きい。日本経済に占める製造業のシェアは約2割に過ぎず、経済の大部分を占めるサービス産業の生産性が中長期的な経済成長率を規定する。このため、政府の経済成長戦略では、10年以上にわたりサービス産業の生産性向上が重要課題とされてきた。
2.しかし、依然として未解決の状態が続いている。サービス産業の生産性上昇率が製造業に比べて低いのは、サービスの質の向上が過小評価されているという統計技術上の理由もあるが、「生産と消費の同時性」という製造業にはないサービス産業固有の性質が影響している。しかし、人工知能(AI)はこの制約を緩和する可能性がある。
3.イノベーションは生産性上昇のエンジンであり、最近はAI、ビッグデータ、ロボットといった「第四次産業革命」が注目されている。機械学習・深層学習などAI関連の学術論文、AI特許、AIベンチャーの急増など世界的なブームになっている。
4.AIが人間の雇用を奪うことが懸念されているが、裏を返せば潜在的な省力化効果が大きい。自動運転による運輸サービスの無人化、AIを装備した介護ロボットなどがある。本格的なAIではないが、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)は、既に企業内の間接部門つまり本社サービスの効率化に活用されている。理論的には、仮にAIが労働を完全に代替できるようになった場合、経済成長率は無限大になる。
5.現実には技術的に自動化が困難な仕事は必ず残るし、人間によるサービスを好む消費者がいるので、無限大の経済成長は起きない。自動車運転、介護などは機械への代替を歓迎する人が多いのに対して、保育サービスや初中等教育は人間によるサービス提供への選好が強い。
6.しかし、これまで機械化が難しかったサービス業務も、AIとそれを搭載した機械のコストが人件費に比べて割安になれば、人間から資本への代替が進んでいく。そしてAIは利用範囲の広い「汎用技術」なので、経済全体の生産性を大きく高める可能性がある。
7.サービス産業の生産性上昇率が製造業に比べて低い一つの理由として、「生産と消費の同時性」という制約がある。つまり需要する人がいる時間・場所でサービスを提供しなければならない。頻繁に例示されるのが理美容サービスだが、飲食・宿泊、運輸、医療・介護、娯楽・スポーツなど多くのサービスはこうした性質を持っている。工業製品と違ってサービスは在庫がないので、大規模な工場で計画的・効率的に生産することができない。8.インターネット、スマートフォンをはじめ情報通信技術の進歩により、情報サービス、一部の小売サービスなど時間・空間の壁を克服しているケースもあるが、対人サービスの多くは依然として同時性の制約を免れない。生産と消費の同時性の結果、サービス産業にとって稼働率が決定的に重要である。いかに立派な店舗を構えて優れた従業員を配置していても、利用者が来なければ生産性はゼロである。
9.ホテルの客室稼働率、航空運輸の座席占有率、タクシーの実車率などが重要業績指標(KPI)なのはこのためである。需要をいかに時間的に平準化できるか、どれだけ人口が稠密な場所に立地するかがサービス産業の生産性を左右する。
10.AIは製造業を含むあらゆる産業の生産性を高める潜在力があるが、サービス産業の生産性向上の観点からは、時間的・場所的同時性の制約を克服する可能性が注目される。AIの大きな特長は「予測力」の向上である。AIが高い予測力を発揮するためには、機械学習のためのビッグデータが不可欠である。そしてサービス産業には顧客情報、消費履歴をはじめ予測に有用なデータが多い。
11.飲食店、宿泊施設、旅客輸送などで精度の高い需要予測ができれば、不要な人員配置を避け、最適なローテーションが可能になるし、食材など中間投入の無駄を減らすこともできる。この結果、インプットの節約という形で生産性が高まる。受け身の対応だけでなく、繁閑に応じた価格設定を行うことで需要自体を平準化する余地も大きい。運輸サービス、宿泊施設などでは従来から季節料金などの仕組みがあるが、ウーバーのように時々刻々と料金を変化させるサービスも現れている。こうしたダイナミック・プライシングを活用すれば設備稼働率を高めることができ、サービス分野の生産性上昇につながる。
12.既に産業用ロボットは普及しており、ロボットの利用度は製造業の方がずっと高い。これに対してAIやビッグデータを利用している企業はサービス企業の方が多く、今後の利用にも積極的である。AIに限らず新技術は既存の労働者に代替する一方で、別の新しい仕事を生み出す。そうした仕事は、新技術と補完的なスキルを持った労働者へのニーズを生む。企業の新技術への志向と従業者の学歴の間には興味深い関係が観察される。AIやビツグデータの利用に積極的な企業は、高学歴者の比率が高く大学院修了者も多い。
13.ロボットの場合、学歴との関係は希薄である。個人を対象にした調査でも、大学院修了者や理科系出身者は、AIによって自分の仕事が失われるリスクは低いと判断している。AIと補完的なスキルは従来に比べて高度なものになることが示峻される。もちろん学歴で測れるような知的スキルだけでなく、対人スキルなどAIで代替されにくい人間ならではの能力の価値も高まる。
14.AIに限らず、汎用技術が経済全体の生産性を高めるには、物的・制度的インフラの整備、企業組織の変革、人材育成などの補完的な投資が必要になる。このため、経済成長に対して目に見える効果が現れるまでには時間がかかる。AIの場合、物的インフラよりも知的財産権制度、競争法、プライバシー保護、規制緩和など制度的インフラの整備が課題になる。おそらく最も重要なのはAI時代の人的資本形成である。既にデータサイエンティスト育成などの取り組みが進んでいるが、大学・大学院を含めて教育セクターが果たす役割は大きい。技術進歩は速いので、具体的な知識の習得だけでなく、変化に対応できる可塑的なスキルの滴養が重要になる。
15.AIに関する統計整備が必要である。AIの経済分析は緒に就いたばかりで、わかっていないことの方が多い。AIの生産性効果の計測や政策効果の検証のためには、AIの利用状況に関する企業や個人レベルのデータが不可欠である。技術自体が日進月歩なので、継続的に実態把握を行う必要がある。AIの経済的な重要性を考えると、包括的・継続的な政府統計として取り組むことが期待される。


yuji5327 at 06:51 

2019年12月19日

次世代の太陽電池として、色素やポリマー、電解液、炭素材料といった有機材料を用いた有機系太陽電池の開発が進んでいる。安価な樹脂基板に印刷プロセスで成膜できる。


「松永新吾(電子デバイス産業新聞記者)著:電子デバイスの今、有機系太陽電池の普及が始まる、IoT市場へ日本メーカー参入 週刊エコノミスト、2019.11.12」は参考になる。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.太陽電池PVにはさまざま種類があるが、現在の主流は結晶シリコン太陽電池である。2017年には100GW以上の太陽電池モジュールが生産されたが、その大半が結晶シリコンである。
2.一方で、次世代の太陽電池として、色素やポリマー、電解液、炭素材料といった有機材料を用いた「有機系太陽電池」の開発が進んでいる。安価な樹脂基板に印刷プロセスで成膜でき、真空装置のような高価な製造装置が不要なことから、安価な太陽電池として普及が期待されている。
3.大きくは「色素増感太陽電池(DSC)」と「有機薄膜太陽電池(OPV)」に分類される。最近では有機無機ハイブリッドの「ペロブスカイト太陽電池(PSC)」も世界中で開発.が加速している。
4.有機系太陽電池の開発の歴史は古く、色素増感型および有機薄膜型のいずれも、1970年代から研究が始まっている。当初は変換効率が低かったが、90年から2000年にかけて、相次ぎ技術のプレークスルーが起こった。
5.色素増感型は90年代初頭にスイスの研究グループが色素を吸着した多孔質酸化チタンと電解液を組み合わせた構造を提案したことで、変換効率が大きく向上した。有機薄膜型も、00年前後に導電性商分子とフラーレン〔サッカーボール状の炭素材料〕を混合した「バルクヘテロ構造」が提案された。高分子とフラーレンがつくる三次元的な構造により電荷の分離が促進されて、変換効率の改善が進んだ。
6.その後、有機系太陽電池は、結晶シリコン太陽電池に比べて変換効率が低い、寿命が短い、相対的なコスト競争力がない、といった理由で用途が見いだされず普及が進まなかったが、近年、各種センサー用の電源になるエナジー・ハーベスティング〔環境発電)用途で見直され、需要が急増している。エナジー・ハーベスティングは、室内光のような弱い光でも高い発.電性能を持つ次世代発電技術である。
7.同じ有機系でも、色素増感型と有機薄膜型では素子構造や発竃メカニズムに大きな違いがある。まず、色素増感型は透明電極の下に多孔質の酸化チタン(粒径10〜20nm)を形成し、さらに酸化チタン上には色素〔ルテニウム錯体、有機色素など)が吸着している。この色素が可視光を吸収して光電変換を行う。
8.光吸収で生成した電子は酸化チタンを経由して外部電極に移動するが、電子を失った色素には電解液から電子が補填され、その電解液には対極から電子が補給される。電子が内部で循環することで発電するメカニズムで、太陽電池の中で唯一、液体を用いた素子構造である。
9.有機薄膜型は、結晶シリコン太陽電池と同様に半導体Pn接合〔P型とn型の2種類の半導体を組み合わせたもの)を基本としたデバイス構造になっている。バルクヘテロ構造の発電層は、「P型導電性高分子」と「n型フラーレン」の組み合わせが一般的。この発電層を電子輸送層と正孔輸送層でサンドイッチする形となっている。発電層に光が当たると励起子(電子と正孔が対になったもの)が生成し、これがPn接合界面に移動して電荷分離〔電子と正孔が分かれる)する。その後、電子は、電子輸送層、正孔は正孔輸送層を経由して各電極に向かう。変換効率は太陽電池にとって最も重要な指標だが、現在、有機薄膜型.の変換効率は16・5%まで改善が進んでいる。色素増感型はシャープが11・9%の世界高効率を達成している。
10.有機薄膜型は08年に米コナルカ社が量産を始め、色素増感型.は09年に英G24i社が世界で初めて商業出荷を始めたが、2社とも12年に経営が破綻(その後、経営移管などで事業継続〕している.。
11.日本でも、多くの企業が研究開発に取り組んでいたが、事業化を前に撤退したところも多い。フジクラは16年から色素増感型.の販売を開始した。さらに、19年に入ると、積水化学工業、リコー、シャープが商業化に乗り出した。フジクラが開発した色素増感型の変換効率は2000ルクス20.8%、100ルクスでも16%超を実現している。現在、IoT向けに販売しているが、今後はオフィス、工場、ヘルスケア、社会インフラ監視などへの用途拡大を目指している。積水化学工業は産業技術総合研究所(AIST∀と共同で開発した112.AD法(エアロゾルデポジシヨン法)を活用し、世界で初めて室温での「フィルム型.」(PEN/ITO基板) の色素増感太陽電池の作成に成功した。変換効率は9・1%で、つくば事業所にはパイロットラインを導入.した。19年からデジタルサイネージ向けフィルム型の少量販売を開始している。
13.リコーも色素増感型で高い技術を持つ。従来の電解液をP型.半導体と固体添加剤で構成したホール輸送材に置き換えた「全固体型」の色素増感太陽電池を開発し、19年には実用化の第1弾として、大成〔名古屋市中区)が発売するバッテリー搭載型オフィスデスクの室内用ソーラーパネルとして供給した。今後は色素増感型のさらなる性能向上を図るとともに、各種センシングデバイスや発光デバイス、スイッチなどの独立電源として用途開発を進める考えである。
14.シャープも19年から色素増感型の商業化を開始した。同社はセルでは世界最高となる11・9%の変換効率を達成し、18年には集積型モノリシックモジュールの開発が完了した。そして、製品化の第1弾として、色素増感太陽電池を電源に用いた電池交換不用のビーコン「レスビー」を開発し、清水建設の屋内外音声ナビゲーションサービス向けに納入した。
15.一方、有機薄膜型は、10年以降に一時研究が下火になっていたが、最近では再び開発が活発化しており、変換効率も16%を突破している。有機薄膜型はドイツのへリアテック、OPVIUSなどが事業化しているが、国内では三菱ケミカルが10年前から有機薄膜型の開発に着手し、11年には変換型半導体BP〔ベンゾポルフイリン)を用いた低分子型OPVで変換効率11・1%を達成。12年には自社計測で11・7%を実現した。製品化は23年ごろを予定しており、まずはIoT向け電源を目指す。その後、建築・建材や自動車、農業などに用途を広げる考えである。
16.東レもセンサー用の電源を目指して有機薄膜型.の開発に取り組んでいる。理化学研究所と共同で耐水性と仲縮性を兼ね備えた洗濯できる超薄型を開発している。東洋紡も13年ごろから材料開発に着手しており、試作したモジユールはアモルファスシリコン太陽電池より1・4倍の出力があることを確認している。最近では、フランスの研究機関であるCEAと共同研究を開始するなど、早期実用化を目指している。
17.本格的な普及が始まりつつある有機系太陽電池だが、競合技術としては同じ有機系のペロブスカイト太陽電池、さらにはCIGS〔銅、インジウム、ガリウム、セレンの化合物)や皿IV族〔GaAsAガリウムヒ素〉など)といつた無機系太陽.冠池がある。CIGSは住宅&産業用、GaAsは宇宙用として広く普及しているが、軽量&フレキシブル、さらには低コスト化に向けた開発が進んでおり、将来は同じ市場で競争する可能性がある。有機系太陽電池が競争力を維持するには、発電性能だけでなく、意匠性や設計の自由度、そして、何よりも安価であることが重要になる。


yuji5327 at 06:51 

2019年12月18日

量子コンピューターの研究は米国が中心だったが、グーグルが一足先に抜け出し,今や中国や欧州、日本で加速している。


「中川雅博(本誌):量子コンピューターで先手グーグルが見せた開発力、週刊東洋経済、2019.11.9」は参考になる。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.量子コンピュータが机上の空論ではないことが証明された。米グーグルは10月23日、独自開発した量子コンピューターを使い、従米型コンピューターでは困難な問題を解く「量子超越性」を達成したと発表した。
2.乱数をつくる計算問題を解くのに、最先端のスーパーコンビューターで約1万年かかるところ、グーグルの量子コンピューターは200秒で済んだということが、同日付の英科学誌「ネイチャー」に論文が掲載された。
3.これまで量子コンピューターは理論上、特定の計算問題を解く性能が最先端のスパコンよりも高いと考えられてきた。今回、グーグルは初め磯辺ウオーキング
て実験で量子コンピューターの優位性を証明した。実用化されれば、創薬や新素材開発のスピードが格段に上がると期待されている。
4.「ライト兄弟の初飛行のように大きな一歩だ」。グーグルの量子コンピューター研究グループでハードウェア開発を率いるユー・チェン氏は発表会見で胸を張った。国内の第一人者である東京大学先端科学技術研究センターの中村泰信教授は、「グーグルが解いたのは特殊な問題で、すぐに役立つわけではない。だが研究のマイルストーンとして非常に重要だ」と評する。
5.従来型コンピューターは、あらゆる情報を「0」と「1」で表し、これをビットと呼ぶ。一方、量子コンピューターは「重ね合わせ」という量子の物理現象を利用する。1つの量子ビットは「0でもあり1でもある」状態である。これにより膨大な並列計算が可能になり、ある特定の計算問題で超高速の処理ができる。
6.世界で開発競争が進む中、なぜグーグルは頭一つ抜け出したのか。国立研究開発法人・科学技術振興機構の嶋田義皓フェローは、「高精度な量子制御ができるチップを開発したことが大きい」と解説する。
7.グーグルが開発した量子コンピューターのチップ「シカモア」は53量子ビットの回路を持つ。チップにはパルス制御装置がつながっており、プログラムに基づいて演算の際に制御信号(マイクロ波)を送って量子を操作する。ただ、外部からのノイズなどによって思いどおりの演算ができなかったり、信号が誤ってほかのビットに影響したりして、エラーが発生することがある。量子ビットそのものがノイズなどによって量子状態を失うこともある。つまり、量子ビット数を増やしてコンピューターとしての本領を発揮するためには、エラー率の低下が不可欠になる。
8.グーグルは今回、回路設計などに工夫を凝らし、ほかの研究機関に先行する形で1%を切るエラー率を実現した。中村教授は、「量子の背後にある現象を深く理解し研究を重ねてきた、長年の蓄積によるものだ」と話す。
9.一方、グーグルの実験に対し、米IBMは、「従来型コンピューターによる処理では、1万年ではなく2・5日で解ける」と主張している。それでも、「(従来型で)2.5日に短縮したとしても、量子ビットがさらに10増えればもう勝ち目はない」(中村教授)という。10.グーグルが量子コンピューター研究に着手したのは2006年。機械学習への応用可能性に目をつけた研究者による地道な取り組みを経て、13年に「量子人工知能研究所」を設立。当初はハードウェアではなく、機械学習のアルゴリズム開発が中心だった。
11.翌年、状況は大きく動いた。米カリフォルニア大学サンタバーバラ校のジョン・マルティニス教授が率いる量子コンピューター研究室を丸ごと取り込んだ。マルティニス教授はこの研究分野の第一人者として知られ、14年にはエラー率を0・1%以下に抑えた5量子ビットのコンピューターの開発に成功。2量子ビットの研究が盛んだった世界に一石を投じた人物である。こうした実績をグーグルは見逃さなかった。
12.マルティニス教授と親交がある中村教授は、「大学の研究チームだけでは限界があると彼は言っていた。学生は卒業していくし、研究者も出たり入ったり。大きなプロジェクトは資金の潤沢な企業の研究所で腰を落ち着けてやる必要があると感じたようだ」と話す。元グーグル本社副社長の村上憲郎氏は、「社外の有力な研究者に対し最適な研究環境を提供して勧誘するのは、グーグルの得意とするところ」と言う。
13.今回グーグルが開発した53量子ビットのコンピューターは、「NISQ」と呼ばれる。これは「ノイズのある中規模の量子コンピューター」を意味する。現状レベルだと汎用性は限られるが、グーグルは独自動車大手フォルクスワーゲンと電池の開発などに量子コンピューターを活用することで提携している。
14.IBMもクラウド経由で量子コンピューターを公開し、独ダイムラーや米JPモルガン・チェースなど数十社と連携。物流の最適化や金.融サービスの高度化などでの活用を検討している。国内の量子コンピューターベンチャー、QunaSys(キュナシス)の楊天任CEOは、「NISQでも産業で使えるアプリケーションを探すことが重要」と話す。これは業界の共通認識である。キュナシスの場合、三菱ケミカルなどと材料開発のシミュレーションで提携している。
15.そして、NISQの先にあるのが、エラー率を実質ゼロにできる100万量子ビット級のコンピューター。当然、量子制御のハードルは高く、グーグルの研究グループでも「あと10年はかかる」との認識である。
16.量子コンピューターの研究は米国が中心だったが、今や中国や欧州、日本も含めて世界中で競争が激化している。グーグルが一足先に「理論の世界」から抜け出したことで、この動きはさらに加速しそうである。




yuji5327 at 07:09 

2019年12月12日

吉野さんノーベル賞授賞式へ

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リチウムイオン電池の開発
ノーベル化学賞
旭化成の吉野彰さん(71)
当初は成果が出ず、部下を減らされる
研究は瀬戸際
研究リーダーの吉野さん
6人のメンバーを4人に減らされた
チームが存続の危機
「あと半年」と決して口にしなかった
82年末の大掃除の後
たまたま目にした論文
コバルト酸リチウムの存在


yuji5327 at 07:06 

2019年12月06日

「脳機能をコンピューターで増強すれば、人間はまだまだ賢ぐなれる」という強い信念があった。


「イーロン・マスク談:超サイエンス起業家イーロン・マスクの頭の中 週刊ダイヤモンド2019/10/26」は面白い。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.サイエンスが飛躍的に発達し、SF作品のように産業と社会を変える時代のアイコンというべき人物が、米連続起業家のイーロン・マスク氏である。マスク氏は今年7月、2年前に自身が設立して以来、謎に包まれていた企業で、ニューラリンクの状況を明らかにした。
2.人間の脳とコンピューターをつなぐシステムの臨床試験について、米当局に実施許可を申請した。このシステムでは、頭蓋骨に穴を開けて大脳新皮質に電極を埋め込み、頭の中で念じるだけでコンピュータを操作することを目指す。ブレーン・マシン・インターフェース(BMI)の一つである。サルを使った実験では、実際にコンピューターを動かすことができた。
3.ニューラリンクはまず重度の障害がある人の支援に着手するが、最終目標は「人間の知能の限界突破」である。マスク氏は人工知能(AI)について、「絶対に逃れられない不死身の独裁者が現れるようなもの」などと警告してきた。この警告口の裏側には、「脳機能をコンピューターで増強すれば、人間はまだまだ賢ぐなれる」という強い信念があった。
4.環境に優しく持続可能な移動手段を目指す電気自動車メーカー、テスラ。都市空間に3次元の道路網を実現する地下トンネル掘削・運営企業、ボーリング・カンパニー。火星の植民地化を目指すロケット企業、スペースX。マスク氏はSFさながらの事業を次々と立ち上げてきた。実際、マスク氏の思考回路はSFの名作によって育まれている。
5.1971年生まれ、南アフリカ共和国出身のマスク氏は、SFやファンタジーといったフィクション小説に没頭して育った。特に愛したのは、英国のラジオ劇脚本を小説化した「銀河ヒッチハイク・ガイド」や、米ロバート・A・ハインラインの代表作「無慈悲な夜の女王」、ロシア生まれのアイザック・アシモフの一連の作品などがある。
6.今でも「アシモフのファウンデーションシリーズ(銀河帝国の崩壊と再生を描いた連作)を再読して、最高だ」とツイッターでつぶやくなど、傾倒ぶりを隠さない。こういったSFに育まれた世界観が、マスク氏の大胆なビジネス戦略を支えている。ビジネスではゲームチェンジャーが一番もうかる。荒唐無稽なほどに大胆な製品とビジネスモデルを描いた方が、既存のゲームのルールを根本から変え、企業や産業を破壊できる。
7.マスク氏がSFの古典をひもとくのは、大きく稼げる事業を求める野心と、子供時代に擦り込まれた世界観が、絶妙な化学反応を起こすからである。日本のビジネスパーソンも学ぶところがありそうだ。欧米では近年、デザイン思考の一つとして「デザイン・フィクション」が静かに浸透している。はるか遠い未来の社会をSF作品さながらに仮想し、それを基に現在の戦略を構築する手法である。
8.デザイン・フィクションを活用した例として、ライドシェア大手の米ウーパー・テクノロジーズがある。「ウーバーエア」と称する飛行型タクシーと、それが飛び交う都而のイメージを公表。壮大なビジョンを示すことで、世界各国の都市や関連製造業を自社のビジネス生態系に巻き込む狙いだ。ビジョンを実現できれば、新しい産業で覇権を握るチャンスがある。サイエンスが産業勢力図を激変させる時代。ビジネススクール的な知識だけでは私たちは生き残れない。



yuji5327 at 06:48 

2019年12月01日

最新の技術で糖度の高いトマトの生産に取り組み、普通のトマトの糖度は4〜5度に比べ、平均糖度8・87である。フルーツの甘さである。


「松崎隆司(経済ジャーナリスト)著:スマート農業の現場甘いトマトやミカン選別に最新披術、
週刊エコノミスト 2019.10.22」は面白い。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.スマート農業が今、日本スの農業を大きく変えようとしている。静岡県の西部を流れる太田川沿いにあるビニールハウス。中に入ると、大人の背丈ほどのトマトのつるが、何列にもずらっと並んでいる。それぞれにやや小ぶりの真っ赤なトマトが実り、作業員が一つずつ手作業でていねいに収穫している。
2.試食すると、甘い。普段食べているトマトとは明らかに違う。農業ベンチャー企業、ハッピー・クオリティー(同県袋井市〉は、最新の技術を使って糖度の高いトマトの生産に取り組んでいる。普通のトマトの糖度は4〜5度。同社のトマトは、平均糖度8・87(最大16・9)である。8度を超えるとフルーツの甘さの領域に入る。
3.トマトは栽培の過程で、水を減らしてストレスをかけると糖度が高まる。しかし過度に減らすと枯れてしまう。そのため綿密な潅水制御が必要で、これまでは熟練したトマト生産者にしかできないたくみの技術と言われた。同社の宮地誠社長は、静岡大学と共同でAI(人工知能)を活用したスマート農業の研究に着手した。
4.特殊なカメラで撮影した画像や、温度、湿度、照明などのデータを収集し、これを基に「しおれ具合」を感知し、その結果によって潅水制御する仕組みを開発した。熟練農家の経験値をAIで補うことで、「高糖度トマトを大きな負担なく大量生産できるようになった」と説明する。5.同社の関連会社サンファーム中山が生産を担い、2016年の栽培開始から、3年で1億円近い売上高を上げるようになった。高糖度トマトは通常のトマトの3〜4倍ぐらいの単価で売れる。宮地社長は「日本の農業には、消費者や市場のニーズをくみ取って商品をつくるマーケットインの発想が乏しい。だから安い価格で販売しなければならず、収益が上がらない。高い付加価値の商品を作って差別化し、それを必要とする人たちに必要なだけ販売すれば、希望した値段で売ることができる」と言う。
6.宮地社長の取り組みはこれだけではない。実は糖度の測定方法も抜本的に変えようとしている。「これまでの糖度計は糖と酸を明確に区別できなかった。だから酸っぱいレモンでも糖度9・7なんて数字が出てしまう」。そこで国の機関とともに新しい糖度計を開発した。糖と酸を区別し、さらにリコピンやGABA(ギャバ〉など最近注目されている栄養素の成分も測定できるようにする。
7.「将来は農家をフランチャイズ方式で組織化し、だれでも簡単に高単価トマトを作れる環境を整えたい」と語る。人の感覚を持つ機械の手農作物の選別システムを開発するシブヤ精機(浜松市)は、慶応義塾大学ハプティクス研究センターと共同で、人の触覚をもったロボットハンドを使った選果作業の自動化実験を長崎県で進めている。実験がスタートしたのは2年前。それまでミカン農家は、傷んでいたり、形が悪いなど商品にならないミカンを各農家で事前に選別する仕組みをとっていたが、国のプロジェクトとして各農家の負担を軽減しようと選果場でまとめて選果する仕組みの実証実験を長崎県(JAながさき西海)で行うことになった。
8.ここで活用されたのが人間の触覚を持っているロボットハンドである。形状・硬さなどが不均一な青果物であっても、適切な力加減で正確につかみ、移動させることができる。慶応義塾大学理工学部システムデザイン工学科の野崎貴裕専任講師が開発し、シブヤ精機が果実用選果システムにこの技術を応用した。ロボットハンドを使った選果システムは、取り扱いが困難だといわれてきた腐敗したミカンを除去することを目的に開発された。紫外照明と白色照明を合わせたシブヤ精機の技術で、果実の大きさ、位置、腐敗度合い、傷の度合いなどを測定し、腐敗果実をロボットハンドがつかみ、ライン外に出す仕組みになっている。
9.これまでは、果実を空気を使って吸い付ける吸着方式や吸引方式が一般的だった。実験は吸着万式とロボットハンドを併用して行ったが、吸着方式だと腐ったミカンを落としたり、ホースに詰まらせたりした。ところがロボットハンドではそうした問題が起こらなかった。ほぼ実用化段階にきている。
10.シブヤ精機は、腐敗果実の選別だけでなく、イチゴや桃、トマトなどの選果や箱詰めまでの一連の作業を白動化、省人化するロボットシステムの研究開発を進めている。さらに農産物の自動収穫など、より複雑な取り扱いが必要な作業への展開も検討している。少子高齢化に悩む農業にも一筋の光明が見えてきた。


yuji5327 at 06:46 

2019年11月25日

顔の知覚・認識のメカニズムで、顔画像を上下反転すると、顔の知覚が難しくなる顔倒立効果が知られている。


「藤田一郎(大阪大学教授)著:赤ちゃんとフェイスブック相通じる顔認識のメカニズム、週刊ダイヤモンド 2019.10.12」は面白い。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.ヒトは、未成熟で生まれてくる。さまざまな感覚機能は何年もかけて少しずつ.発達する。とはいえ、何もないところからこれらの機能が生じるのではない。生まれたときにある程度の機能を持ち、それを使って体験を積み重ねることで、脳と感覚.が発達する。
2.どれだけの機能を生.まれつき備えているかを解明することは、発達障害の理解にもつながるため、活発に研究されている。生まれたばかりの赤ちゃんはどのくらい耳が聞こえ、目が見えているのだろうか。言葉で尋ねることができないので、彼らの感覚世界を知るには工夫を凝らした実験が必要である。
3.赤ちゃんが生後3日以内にすでに母親の声と他の女性の声を区別できることを示した実験がある。赤ちゃんが人工乳首(おしゃぶり)を求められたスピードで吸うと母親の声がスピーカーから流れ、他のスピードで吸うと別の女性の声が流れるような仕組みを作ると、赤ちゃんは母親の声を求めて、適切なスピードでおしゃぶりを吸うことが示されている。
4.赤ちゃんがおっぱいを吸い母親が声を掛けるというやりとりが、生.まれてすぐに可能である。赤ちゃんの聴覚系は母親の体内にいるときからすでに働いており、その頃から母親の声を聞いていることが、生.後すぐに母親の声を求めることを可能にしている。
5.一方、生まれたばかりの赤ちゃんの目は焦点があまり合っておらず、ものを見る機能は発達していないように思える。実際、立体視や色の区別は生後数カ月くらいから少.しずつできるようになる。ところが、粗いながらも顔の認識はずっと早く機能している。生後数時間で、赤ちゃんは顔に似た図形パターン(顔パターン)に好んで目を向ける。一方、目、鼻、ほの配置を崩したパターンにはあまり関心を持たない。
6.顔パターンに対する好みは目と口を模した3つのドットのような単純なパターンに対しても起きる。赤ち.やんがこの刺激を顔として知'覚しているという解釈は、この図形を逆さまにして横に並ぷ二つのドットが下に来るようにすると関心を示さないことが根拠になっている。というのは、顔画像を上下反転すると、顔の知覚が難しくなるという現象〔顔倒立効果)がかねて知られているからである。
7.その一つの例が、有名なサッチャー錯視である。サッチャー元英国首相は口や目が引きつって不機嫌そうに見えるのを、上下にひっくり返して正立させてみると、とてつもなく奇妙な写真であることが初めて分かる。倒立した顔画像からはこの奇妙さを感じることができない。
8.生まれて数時閻で確認できる顔倒立効果が生まれつきのものか、それとも数時聞の生後経験で獲得したものであるかは明らかではない。鳥類ではインプリンティングと呼ばれる学習がふ化直後に起きることが知られており、ヒトにおいても生後数時間で学習が成立する可能性が十分にあるからである。
9.この2つの可能性を.区別する方法がなかった。しかしごく最近、この問題に関する驚くべき研究報告が相次いでなされた。英ランカスター大学のヴィンセント・リード博士らは、妊娠8カ月の女性の腹部に光を当て、ドット3つから成る正立顔パターンとその倒立パターンを子宮に向けて投影した。そして、それらのパターンを左右に動かしたときに、胎児が顔の向きをどのように変えるかを超音波映像法で調べた。その結果、胎児は正立顔パターンに対して頻繁に顔を向けることが判明した。顔倒立効果は、生後の視覚体験を経なくても生.じるのである。
10.しかし、この結果は、生後の視覚体験が顔倒立効果に何も影響を及ぼさないということを意味してはいない。そこで、英ロンドン大学のルチア・ガリード博士らは全く異なるアプローチでこの問題に取り組んだ。彼女らは、世界を上下逆さまに見て育った人物が顔倒立効呆を示すかどうかを調べたのである。
11.ブラジル人青年のクラウディオ・ビエイラ・デ・オリベイラ氏は、先天性多発性関節症のために顔が完全に後ろに反っくり返った状態で育った。出生時に、その症状の重篤さを見た医師から「生き延びる可能性はないので哺乳をやめるように」と助言を受けた母親はそれを拒絶し、息子を育て上げた。現在オリベイラ氏は講演や執筆などで活躍しており、インターネット上で彼の講演ビデオを見ることもできる。
12.オリベイラ氏の存在を知ったガリード博士らはブラジルに飛び、彼が顔倒立効果を示すか、示すとしたらそれは生まれつきか生後に獲得したものかを区別する綿密な実験を行った。その結果、顔倒立効果には生得的な要素と生後経験による要素の両方があることが判明した。この研究成果は、今年8月にベルギーで開催された「ヨーロッパ視知覚会議」で発表がなされた。
13.顔の知覚・認識のメカニズムの理解は、顔認証システムなどへの工学応用にも貢献する。コンピューターによって顔の詳細な特徴を解析すれば、当然のことながら顔を区別することができる。例えば.瞳の模様は一人一人異なるので、それに基づいて個人を特定することが可能なのは周知の通りである。しかし、遠い所にいる人物や質の悪いビデオ映像の中の人物を特定するには、このような方法ではうまくいかない。
14.目と口の相対位置の情報は大まか過ぎて、ブルーベリーマフィンとチワワを混同するような原因にもなる一方、人物特定の重要な情報にもなり得る。フェイスブックにおける顔認識アルゴリズムにも目と口の相対位置の情報が利用されている。そのため、フェイスブックに掲載した「皿にのせた3つのオリーブ」の写真に、ある特定人物がタグ付けされたりすることが時に起きる.、母親を見つめる赤ん坊とフェイスブックに意外なところに共通点があった。



yuji5327 at 07:03 

2019年11月24日

PHVこそ最良のEVと政治家や役人にもっと働きかけるべきである。EV化は日本の自動車メーカーの命取りにはならない。


大前研一著:日本の論点2019~20,、プレジデント社、2019.2.4」は参考になる。「7.世界で進むEVシフト、それでもトヨタが勝つ方法」の印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.2017年7月、フランス政府は地球温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定を順守するための具体策として40年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止するプランを表明した。ほぼ同時期にイギリス政府も大気汚染対策として、40年からガソリン車とディーゼル車の新規販売を禁止する方針を正式発表した。
2.すでにオランダやノルウェーでは25年までにガソリン車やディーゼル車の販売を禁止する法案の準備が進められていて、ドイツでも30年までに発火燃焼エンジン、要するにガソリン車とディーゼル車を禁止する決議案が連邦議会で採択された。
3.自動車の市場規模世界4位、大気汚染が深刻なインドでも17年6月に30年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を禁じて国内販売を電気自動車(EV)に限定する政策を打ら出した。世界第2位の自動車大国アメリカは州によって厳しい環境規制が敷かれている.たとえげカリフォルニア州では州内で一定以上の台数を販売する自動車メーカーに対して、排出ガスを一切出さない車を一定比率以上販売することを義務付けている。
4.カリフォルニア州のZEV規制は1990年代から始まって改正を重ねてきたが、18年からZEVの販売比率が現行の14%から16%に引き上げられ、さらにZEVの対象からハイブリツド車、天然ガス車、低排出車が外されるなど、規制が大幅に強化される。このようなZEV規制は全米に広がりを見せ、現在は11の州で採用されている。
5.17年9月、世界最大の自動車マーケットである中国でも、19年から自動車メーカーに10%の新エネルギー車(NEV)の製造・販売を義務付ける規制の導入が発表された。今後はガソリン車やディーゼル車の製造販売を禁止することも検討されている。脱エンジン、脱内燃機関は世界的な潮流だが、フランス、イギリス、インドなどが相次いでガソザン車とディーゼル車の販売禁止の方針を打ち出し、中国がNEV規制を発表したこの数カ月で世界の自動車業界がどちらの方向に進んでいくのか、勝負は決した。今後の競争の軸になるのは電気自動車(EV)、ということである。
6.ヨーロッパ最大手フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題やパリ協定の発効などで、ガソリン車、内燃機関の行く末を悟った自動車メーカーは少なくない。すでにボルボ(スウェーデン)はエンジン車から撤退して19年以降に発売する全車種をEVなどに切り替えることを表明している。VWも25年までに80種類以上のモデルでEVないしプラグインハイブリッド車(PHV)を揃え、30年までにはグループ全体で300種類以上あるモデルすべてにEVかPHVを設定する計画を発表した。ディーゼル不信を招いたVWにとってEV化は過去と決別して生まれ変わる絶好の機会であり、同じドイツ大手のダイムラーやBMW、他の欧州メーカーもEV強化策を続々と打ち出している。
7.中国では200以上のEVメーカーが勃興して、開発にしのぎを削っている。そうした中でBYDのような新興メーカーがEV専業のテスラはおろか、旧来の大手メーカーを食う時代がやってくるかもしれない。
8.EVシフトが進んで世界の自動車業界の勢力図が塗り替わりそうな中、問題は日本勢である。この20年、日本の自動車メーカーはガソリンエンジンと電気モーター、2つの動力で走行できるハイブリッド車でエコカーの世界をリードしてきた。その分、EV化に腰が入らずに出遅れた。しかも環境規制強化の流れの中で、CO2を排出するハイブリッド車は環境対策車として不十分とみなす動きが出てきた。
9.カリフォルニア州のZEV規制でも、18年からハイブリッド車はZEVの対象から外される。19年からスタートする中国のNEV法でもハイブリッド車は含まれていない。もはやハイブリツドに胡坐はかけないということで、トヨタはマツダと組んでピユアEVへの本格参入を決めた。マツダは世界で唯一、ディーゼルでヨーロッパの厳しい環境基準をクリアしている会社である。しかし内燃機関の塊のようなトヨタとマツダが組んでEVを作るのは疑問である。
10.皆勘違いしているのは、トヨタもつく、つくっているPHVというのは実はEVそのものにもなる。ガソリンエンジンを回さなければ充電できないハイブリッドに対して、PHVはプラグを差し込んで外部から直接充電できる。EVと理屈は同じである。フル充電なら30〜50km程度はガソリンを使わずにバッテリーだけで走れるし、PHVによってはエンジンを起動しないでバッテリーで走るモードが選択可能である。
11.買い物や通勤などで環境規制が厳しい都市部を走る場合は電気モーター、都市部を離れて長距離を走る場合はガソリンエンジン併用という使い分けができる。EVドライバーの心理として一番の心配は長い距離を走ることである。カタログ値でテスラのモデル3は500キロ、日産リーフは400キロ走行可能というが、そこから先が怖い。サービスエリァやカーディーラーなどには直流の高速充電器が設置されているが、ガソリンスタンドを探すほど簡単ではない。仮に運よく見つかっても、充電に1時間近くかかる。
12.PHVの場合、夕方に帰ってきて、自宅の交流100Vのコンセントにプラグを差しておけば、一晩でフルチャージでぎるから、日常、市内をEVモードで走る分にはそれで十分。長距離を走ってバッテリーか心細くなってもガソリンエンジンがある。ガソリンとバッテリー、700kmくらいは走れる。しかも、郊外に出ればエンジンを回して電池をチャージすることもできる。つまりPHVはバックアップにガソリンエンジンを持ったEVと考えればいい。「プラグインハイブリツド」などと言わず、「EVアシステッド・バイ・エンジン」とでも言えばいい。そうすればEVシフトが進んでも、PHVが排除される側に回ることはない。
13.ハイブリッド車やPHVに使われている高度な基幹技術、たとえばパワフルな交流モーター、バッテリーの直流電流を交流電流に変換するインバータ、減速したときに電気をつくり出してチャージしてその抵抗力でブレーキをかける回生ブレーキをなどはEVにも共通する技術である。その生産量はハイブリッド車やPHVで圧倒的なシ」アを誇るトヨタが世界一であり、いまだ25万台程度しか販売していないテスラなどは足元にも及ばない。
14.EV最大の技術的ネックはバッテリーだが、これは内製しているメーカーはほとんどないから差別化は難しい。トヨタは電池容量や充電時間が飛躍的に向上する「全固体電池」の量産化を目指しているが、まだしばらく時問がかかりそうである。それでも現状、PHVはEVの要件をすべて満たしている。エンジンを回さずにバッテリーをチャージできるし、いざというときにはエンジンのアシストもついている。そうした点をユーザーや規制当局に対してきちんと説明していくべきである。欧米でエコカーの本命がEVに傾いたのはPHVのロビー活動が足りなかったからである。
15.メーカーの人は「PHVはHVの延長と考えていた」という。「PHVこそユーザーが安心できる最良のEV」と政治家や役人にもっと働きかけるべきである。EV化は日本の自動車メーカーの命取りにはならない。自動運転といった大問題が待ち構えていることを理解しておくべきである。


yuji5327 at 06:52 
池上技術士事務所の紹介
261-0012
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池上技術士事務所(代表:池上雄二)の事業内容
以下のテーマの技術コンサルタント
1.公害問題、生活環境、地球環境
2.省エネ・新エネ機器導入
のテーマについて、
・技術コンサルタント
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・アンケート調査・分析
・技術翻訳、特許調査
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お気軽に下記にメールをください。
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工学博士、技術士(応用理学)、
公害防止主任管理者、
騒音防止管理者の資格で
お役に立ちたいと思います。

池上湖心 プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山に師事
書象会に所属、書象会理事
審査会々員
○作品展の開催
・主宰している「さざ波会」
 作品展を毎年8月開催
(於:稲毛ギャラリー)
・土曜会(グループ展)
 作品展を毎年10月開催
(於:銀座大黒屋)
○公募展の受賞、入選
・日展入選
・読売書法展(現在理事)
 読売奨励賞
 読売新聞社賞
・謙慎展(現在理事)
 春興賞の受賞:2回
○書道教室
・学生:月曜日
・一般:火曜日、水曜日





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