新技術

2019年09月25日

技術の進化で、がん発症の長年の定説は塗り替えられつつある。ジョブズの言葉で、科学者は固定観念にとらわれず貧欲であれという態度が求められる。


「大隅典子(東北大学教授)著:遺伝子解析の進歩で判明したがんの進化と多剤療法の根拠、週刊ダイヤモンド 2019.08.03」は参考になる。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.2005年6月12日、米スタンフォード大学の卒業式でのスティーブ・ジョブズのスピーチは、「Stay hungry Stay foolish」で締めくくられた。この15分間のスピーチで、ジョブズは自身が膵臓がんにかかっていることに触れた。人類とがんとの戦いは平たんな道のりではない。11年のピュリツァー賞受賞作「病の皇帝:がん」に挑む人類4000年の苦闘によれば、がんについての最初の記載は、紀元前2500年の古代エジプト時代までさかのぼる。
2.著者で腫瘍内科医のシッダールタ・ムカジーは、人類がいまだにこの病を克服できていないことを嘆いた。科学も医学もなかった時代、がんは「体液」の異常と見なされたこともあった。その本質が細胞の異常な増殖によるものだと分かったのは19世紀になってからである。そして20世紀、発がんに関わる化学物質やウイルスが相次いで見つかり、がん細胞の性質の理解が進んだ。
3.私たちの体を構成する約38兆個の細胞の振る舞いには、幾つかの決まり事がある。細胞同士が仲良くくっついて組織を構築する。遺伝情報が青き込まれているDNAに変異が生じた場合は修復する。細胞が自ら分裂して増えるかどうかは周囲を付度する、などである。これらのルールを無視して暴走し、勝手に増殖したり、組織から逸脱して移動したりする悪ガキのような細胞が、がん細胞である。ほかの体の細胞たちはこれに抵抗し、暴走し始めた細胞を自ら死に至らしめる仕組みもある。
4.がんの治療法としての最初のアプローチは、外科手術による病巣の除去である。その後、がん細胞の増殖を化学物質や放射線により抑え込むことが試みられてきた。最近では、がん細胞を見つけて攻撃する体内の仕組みを利用したいわゆる「免疫療法」も登場した。18年に京都大学特別教授の本庶佑先生がノーベル生理学・医学賞を受賞することになったPD-1抗原の発見もそのような研究成果の一つである。
5.だが、ここ数年の聞に、これまで想定されてきたがんの発症モデルを根本的に見直す動きが新たに始まっている。20世紀後半、がんは遺伝子の変異が蓄積することによって生じるという考え方が浮上した。例えば、遺伝的にがんを発症しやすい遺伝子型を持っている人の細胞に、何らかの変異が加わると発症に至る。このことは、網膜芽細胞腫という目の中に生じるがんでモデル化されてきた。
6.がんを発症しやすい「がん抑制遺伝子」の変異を両親から受け継いだ場合に、2つ目の変異として「がん原遺伝子(がん細胞の増殖を促進する遺伝子〉」が活性化するような変異が生じると、網膜芽細胞腫の発症に至る。これは発見者の名を取って「クヌードソン仮説」あるいは「ツーヒットセオリー」と呼ばれてきた。こうしたコ「前がん状態」から徐々に変異が蓄積され、より悪性度が高くなるという考え方は、いわば、遺伝子変異の蓄積を「線形」なものとして捉えている。
7.ところが、次世代シーケンサーの登場と、情報科学的解析法の進歩によって、がんの進行はもっと複雑であることが明らかになりつつある。従来よりもDNAの解読が迅速かつ安価になったことにより、丸ごと解析していたがん病巣の細胞を、もっと細かく分けて解析してみる機運が生まれ。例えば昨年、九州大学の三森功士教授らのグループが英科学誌ネイチャーのオンライン関連誌で報告した論文には、大腸がん患者から採取したがん組織の遺伝子を解析し、その結果、同じ患者のがん病巣の中であっても、細胞集団ごとに異なる遺伝子変異が生じていたことが判明した。さらに生物統計学的な分析を加えると、重要な遺伝子の変異が比較的早期に生じていることが分かってきた。
8.がん化を生物進化の系統樹に見立てると、枝分かれする前の幹の部分で生じた変異が、その後のがんの進化を促進する。P23という細胞の増殖を抑制する「がん抑制遺伝子」や、KRASという「がん原遺伝子」が、このようながん進化を促進させる「ドライバー遺伝子」に相当する。そして重要なことに、前がん状態からがんが進行する様態は、「線形」な推移ではなく、複雑に分枝していることが分かった。
9.つまり、同時多発的な遺伝子の変異が生じ、一つのがん病巣の中に異なる性質を持ったがん細胞集団が併存していることになる。これは、生物の進化で言えば、突然変異と遺伝的浮動を軸とする「中立進化」に相当するといえる。がんの「転移」も病気の進行を左右する。従来の考え方では、遺伝子変異が蓄積していく最後のフェーズにおいて、細胞を転移させる遺伝子の変異が生じると見なされてきた。
10.原発巣や転移病巣をつぶさに遺伝子解析してみると、転移巣に特異的な遺伝子変異は見つからなかった。このことから、遺伝子変異以外の要因(例えば、細胞のエピジェネティックな様態など)が転移に関係していると推測される。さて、がんの進行に伴う変異が複雑で細胞集団が枝分かれしていることは、一つのがん病巣が見つかったとしても、そのがん細胞を駆逐するのに適する薬物が複数必要になる可能性を示している。
11.多剤併用療法が重要になってきた根拠はここにある。つまり、ある遺伝子変異を有するがん細胞集団を殺すのに有効な薬剤Aは、別の変異を持つがん細胞集団には効果がなく、別の薬剤Bを使う必要がある。伝説のスピーチから6年後、ジョブズは亡くなった。今後、ゲノム科学が発展し、新たな解析方法が導人されることにより、がんの診断や治療は大きく変化していくことが期待される。技術の進化で、がん発症の長年の定説は塗り替えられつつある。ジョブズの言葉を借りるならば、科学者は常に「固定観念にとらわれることなく貧欲であれ」という態度が求められる。



yuji5327 at 06:58 

2019年09月24日

新世代の「5G」のキーワードは「高速大容量」で、2時間の映画をわずか3秒でダウンロードできる。2つ目は「低遅延」で、海外のテレビ中継で、会話にズレが生じない。

「池上彰著:
知らないと恥をかく世界の大問題10 角川新書、2019.6.10」は参考になる。「第4章:習近平の1強政治」の印象に残った部分の概要の続きを自分なりに補足して纏めると以下のようになる。・
1.ドナルド・トランプ大統領は、中国に貿易戦争を仕掛けた。アメリカには中国から大量の輸入品が入ってくる。それによってアメリカの赤字が膨大になる。アメリカ人の雇用も奪われる。貿易赤字を少しでも減らすために関税をかける。関税のことを英語でtariff(タリフ)といい、トランプは自分のことを「タリフマン」という。彼は貿易については常に1対1で考える。多国間ではなく、国との間で貿易赤字があるかないかで損得を考える。中国との貿易額はとんでもなく不均衡である。中国の後は、日本にも圧力をかけてくると思われる。貿易について、アメリカと中国が衝突している一番の理由は、「ハイテク覇権争い」である。
2.アメリカは中国が「バックドア」(ウイルスが不正侵入をするためにつくる裏口こと)を使ってアメリカ企業から機密情報を盗もうとしていると疑っている。アメリカがとりわけ怒っているのは、2017年に中国が「国家情報法」という法律を施行したことである。中国は、中国国民や中国企業に対し、「世界のどこにいても情報収集で中国政府に協力しなければならない」ということを法律で義務付けた。つまり「全国民がスパイになれ」ということである。
3.もうひとつは、自動運転などに欠かせない「5G」の分野で、アメリカは中国に絶対に主導権を握らせたくない。2018年9月、中国通信最大手、ファーウェイの創業者の娘、孟晩舟は「5Gの世界標準を獲得した」と、四川省成都の講演会で優位を述べた。5Gとは第5世代の移動通信システムのことで、携帯電話を見ると4Gと表示されている。4Gはアメリカの技術である。1G(第1世代移動通信システム)。1980年代のバブル時代、肩から下げるショルダー型の移動電話があった。自動車電話も1Gで基地局のカバーエリアが2kmから3kmあったので、自動車で走りながらでも十分に通話が可能だった。2G(第2世代)は、1990年代前半から普及が始まり、メールやネットができるようになった。3G(第3世代)は、より高速なデータ通信を実現し、2000年代後半には携帯電話からスマートフォンへのシフトが始まった。4G(第4世代)になると、速度が一層速くなり、パソコン並みに快適に動画も楽しめるようになった。
4.新世代の「5G」のキーワードは「高速大容量」である。2時間の映画をわずか3秒でダウンロードできる。2つ目のキーワードは「低遅延」である。海外からのテレビ中継などを見ていると、会話にズレが生じるが、5Gではタイムラグが0・001秒である。中継も通信衛星を使うと何秒か遅れが生じるが、インターネット回線を使うと遅れがなくなる。
5.これを活用すれば「自動運転」「遠隔医療」などが可能になる。2019年2月、スペインの医師らが5Gによる手術の遠隔指示に世界で初めて成功した。専門医が不足する過疎地でも、指示を受けながら手術ができるので地方活性化につながる。働き方改革が進む可能性もある。
6.3つ目のキーワードが「多接続」である。IoT(モノのインターネット)ではスマホだけではなくあらゆるモノがネットにつながる。5G規格ではIoTでの利用を想定して1平方凖たり100万台の端末を同時に接続できる。家電も車も、自宅や職場にいながら遠隔操作ができる。
7.5Gの技術で、圧倒的に進んでいるのが中国のファーウェイである。ファーウェイの中国本社の映像を見ると、広さは東京ディズニーランドの4倍、敷地内には本物の鉄道が走っている。テーマパークのような環境の中で、4万人の従業員(うち技術開発者2万人)が働いている。ファーウェイはもともと携帯電話のネットワークに必要な基地局などの通信機器を提供する企業だった。その後、携帯端末も手掛けるようになり、現在はスマホの販売台数で韓国のサムスン電子に次いで2位になった。アメリカのアップルは3位である。ファーウェイの携帯電話を使うと、利用者の位置情報はもとより、その人が何を注文したか、何を見たか、すべてファーウェイがデータを持つことになる。
8.ファーウェイだけではなく、中国のアマゾン・ドット・コムといわれるアリババは、顔認証で支払いができるレジを開発。生体データはもちろん、購買履歴、学歴や資産、通院やた投薬歴など、すでに6億人の個人情報を溜め込んでいる。アリババの系列企業が始めたセサミクレジットは「開けゴマ」のゴマ(セサミ)である。アリババ社が提供するモバイル決済サービスのアリペイを使ってさまざまな支払いをきちんとしていれば、スコアが上がり、支払い状況がよければ優遇されます。その一方、もしこのデータが中国政府に渡っていれば、赤信号で渡ったり自転車を放置したりしたら顔認識ソフトで本人が特定され、スコアが下がる。マナーはよくなるが、こうなると政府への抗議運動などに参加したりすると、スコアは激減する。
9.顔認証といえば、中国ではコンサート会場で監視カメラなどの顔認証システムにより、指名手配されていた容疑者が逮捕されるケースが相次いでいる。中国はいま、前代未聞の監視社会になっている。1党独裁によって人々が徹底的に管理され、ユートピアではなくディストピアに生きる。ジョージ・オーウェルの小説『1984』の世界がついに完成した。
10.かつて日本は「経済一流、政治一流[といわれたが、日本はこのハイテク覇権争いから脱落した状況である。アメリカと中国だけの2強の戦いであり、いまのところ人工知能(AI)などの技術でも中国の勢いが止まらない、2019年2月4日付の日本経済新聞に「アリババ、バイドゥ:中国『BATIS』の野望」という記事があった。BATISは、習近平指導部が国家プロジェクト『AI発展計画』で17〜18年に指名した5大プラットフォーマー、である。
11.具体的には百度(バイドゥ、自動運転)、アリババ(スマートシティー)、テンセント(ヘルスケア)、アイフライテック(音声認識)、センスタイム(顔認識)の5社である。「BATH」(百度、アリババ、テンセント、ファーウェイ)が注目を浴びているが、それとは違う。この5社は補助金や許認可で手厚い支援を受け。
12.習主席が指名する5大プラットフォーマーにファーウェイが入っていない。任正非およびファーウエイが、習主席が敬遠する江沢民派だからだとの話もある。しかし、ファーウェイが中国の重要企業であることには変わりはない。一方で、EU(欧州連合)は、アメリカが各国にファーウェイの部品を組み込んだ製品の採用をやめるように働きかけていることに対し、「一律には排除しない」との立場を明らかにした。加盟各国に判断をゆだねるということで、アメリカとは一定の距離を置くようである。
13.アメリカには「GAFA」と呼ばれる有名企業群があります。グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの4社である。アメリカと中国のハイテク覇権争いはどちらに軍配が上がるのかは、日本も無関係ではない。日本としては同盟国であるアメリカと歩調を合わせる方針を固めた。しかし、ファーウェイ製品は品質が悪いわけではない。ファーウエイの携帯には多くの日本製の部品が搭載されていて、iPhoneが「メイドインチャイナ」なら、ファーウェイは「メイドインジャパン」だとの声もあるほどである。多くの日本企業にとっては、政府のファーウェイ排除の決定を支持するのは辛いはずである。


yuji5327 at 06:57 

2019年09月21日

AIの作品が世界のオークションに出品された。AIを開発した研究者3人は絵画の素人集団。芸術とは何なのか疑念が湧き上がる。


「池谷裕二著;闘論席、週刊エコノミスト、2019.8.6」は面白い。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.昨年10月、クリスティーズのオークションで絵画「エドモンド・デ・ベラミー」に43万2500ドルの値がついた。予想をはるかに上回る落札金額に会場がどよめいた。
2.画家は人工知能〔AI)である。AIの作品が世界規模のオークションに出品されたのは初めてである。AIを開発したフランスの研究者3人は、絵画の訓練を受けたことのない素人集団。創作アルゴリズムもシンプルで、斬新な計算原理が使われているわけでもない。芸術とは一体何なのかと、深い疑念が湧き上がる。
3、今年6月には人型ロボットのアーティスト「アイーダ(Ai・Da〕」の個展が英オックスフォードで開催された。仕上げにプロ芸術家の手助けは必要だが、アイーダの腕は確かで、絵画はもちろん、彫刻も名人のレベルにある。モダンアートがとりわけ得意で、一流画家の作品に比べて遜色ない。
4.アイーダは、小説やオブジエなど、与えられた題材から新たな主題を構築し、抽象絵画を創作する。内部に複雑な数理メカニズムを備えており、創作はもちろん、創作手段も白ら学習しながら、新たな芸術概念を打ち立てていく。
5.エイダン・メラー学芸員は「アイーダは芸術家であるだけでなく、アイーダそのものもまた芸術作晶です」と述べる。確かにアイーダは、芸術、学芸、計算科学など、多様な分野の融合の上に結実した芸術的結晶である。
6.展覧会は盛況だった。しかし「芸術への冒とく」「ロボットで行う意味はない」など、賛否両論が飛び交った。私白身は、こうした社会的インパクトよりは、もっと原始的な問い、「今なぜそこに赤色を置いたのか」というような創作原理の本質的な問いに迫るためのツールとして、アイーダのような人造芸術家に興味を持っている。


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2019年09月11日

液晶や有機ELといった平面液表示装置の一つに、電子ぺーパーディスプレー(EPD)がある。EPDは、紙に似た表示品質を実現できる平面ディスプレーである。


「津村明宏(電子デバイス産業新聞編集長)著:電子デバイスの今、活用が進む電子ペーパー紙の用途を置き換えへ、週刊エコノミスト 2019.7.23」は面白い。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.液晶や有機ELといった平面液表示装置の一つに、電子ぺーパーディスプレー(EPD)がある。EPDは、紙に似た表示品質を実現できる平面ディスプレーである。高精細な色表現や高速の動画表示は苦手だが、白地に黒の文宇や絵を表示するため視認性が高く、太陽光直下のような明るい場所でも鮮明に文字を判読できる。加えて、液晶や有機ELに比べて、消費電力が極めて小さい。こうした特性を生かし、主に米アマゾンの「Kindle」や楽天傘下の「Kobo」に代表される電子書籍端末に搭載されている。
2.現在使われているEPDは、マイクロカプセル型電気泳動と呼ばれる方式で文字や絵を表示する。帯電した黒と白の粒子および溶媒を入れたマイクロカプセルをプラスとマイナスの透明電極で挟み込んだ構造になっている。これに電気を流すと、白または黒の粒子が電極に吸い寄せられるため、白と黒の表示が切り替わる仕組みである。最近では、いったん文字や絵を表示させると、次に電気を流すまで表示を維持できる、極めて省エネなEPDも登場している。マイクロカプセル型.竃気泳動方式EPDの元になつたのが、電予インク技術を開発していた米国のベンチャー企業であるイー・インクだ。これを2009年9月に台湾のプライムビユー・インターナショナル〔PVI)が買収し、PVIは社名をイー・インクに変更した。その後、イー・インクは12年に同業の台湾サイピックスを買収し、EPDをほぽ独占的に製造・販売するようになった。
3.PVIは当初、韓国ハイディステクノロジーから買収した液晶ディスプレー事業も手がけていたが、現在はこれを終息させ、イー・インクとしてEPDに特化した事業を推進している。
4.電子書籍端末は現在もEPDにとって最大の用途であるが、現在これに並ぷ勢いで普及しつつある用途が篭子棚札、いわゆる店舗の値札である。EPD自体の視認性が高いことに加え、EPDと無線通信技術を連動させれば、特売日やタイムセールなどに応じて商品の値札を自由に書き換えることができる。手書きミスを防げるうえ、値札の貼り替え作業に人手をかけずに済むため、店舗オペレーションを大幅に効率化し、店員は接客など付加価値の高いサービスに集中できる。
5.これまでは一部店舗への試験導入に限られていたが、日本では家電量販大手のビックカメラが2月にオープンした町田店に全面導入したことを皮切りに、21年をめどに全店へ導入する方針を表明。これにエデイオンや上新電機なども続いており、普及に弾みがつく。こうした需要拡大に対応し、EPDの技術革新も続いている。従来は白と黒の2色しか表示できなかったが、イー・インクでは電子棚札用に黒+白+赤や黒+白+黄といった3色表示が可能なEPDを発売。さらに、シアン(青)、マゼンタ(赤〉、イエロー、ホワイトの4顔料マイクロカプセル化電子インクを使用し、8原色すべてを含むフルカラーを表示できるEPD「ACeP」も発売し、2月には伊勢丹新宿店のイベント告知用に採用された。
6.急成長している電子棚札に限らず、さらなる用途開拓も進めている。イー・インクの狙いは、まさしく「紙への印刷をEPDに置き換える」ことにあるためである。例えば、空港で手荷物を預ける際、手荷物にバーコードを印刷したシールが貼り付けられるが、スーツケースにEPDを搭載しておけば行き先情報などを小さな電力で自在に書き込み、書き換えることができるため、シールを使わずに済むようになる。
7.物流分野に関して、イー・インクは18年9月、富士通セミコンダクター、凸版印刷と共同で.バッテリーレスのEPDタグ・評価ボードを開発した。イー・インクの低電圧EPDモジュールと、富士通セミコンのUHF帯FRAMRFID LSIを組み合わせたもので、最長20cmの距離のデータ転送ができ、いつでもタグを更新できる。凸版が日本のコンビニエンスストアチェーン向けに開発し、物流管理業界や製造業にも順次提案していく方針である。
8.他の新規用途の一つとして、バス停などの交通表示板がある。イー・インクは18年2月、太陽光発電を利川した旅客情報ディスプレー技術のプロバイダーである英ベーパーキャスト・リミテッドと共同で会津バスのバス停留所にEPDサイネージのパイロット版を納人した。LPWA〔省電力広域無線)技術によって、バスの到着、時刻表、ルートデータ、ルート転送、サービスの変更および計画外のサービス変更といったリアルタイム情報を提供できる。日本には50万カ所以上のバス停留所があるが、90%に電源がなく、使用するディスプレーは低電力で、ネットワークケーブルを使わずに簡単に設置できる必要があるため、EPDが期待される。
9.医薬業界もターゲットにしている。イー・インクは17年10月、経皮吸収治療システムを開発している独LTSと共同で、スマートパッチのプロトタイプ開発パートナー契約を結んだ。開発するスマートパッチは、患者に経皮吸収によつて医薬品を簡便に投与する貼り薬で、関連する情報を表示できるEPDを搭載したもの。まず慢性疾患の治療をターゲットにして実用化を目指している。
10.18年4月には、医薬品や化学品の包装事業を手がける独ファウベルと、治験用医薬品パッケージ向けにスマートラベルを実用化したと発表した。バッテリーを使用しないEPDとRFIDタグを組み合わせ、必要に応じてラベルの情報を更新できるようにし、臨床試験時などのラベルの貼り替えの手間やコストを削減する。
11.教育関連もある。17年4月、イー・インクはソニー子会社のソニーセミコンダクタソリユーシヨンズとEPDを活用した商品開発などを行つ合弁会社を設立した。両社は04年からパートナーシップを築き、ソニーはイー・インクのEPDを搭載したデジタルペーパーや電子書籍端末などを商品化しており、18年6月には電子文書を紙のように読み書きできるA5サイズ相当のデジタルペーパー「DPT―CP1」を発売した。また、17年5月には、テラダ・ミユージック・スコアが世界初の2画面EPD楽譜専用端末「GVIDO」を開発した。13・3インチの2画面で楽譜とほぼ同サイズを実現し、内蔵メモリーやマイクロSDカードで大量の電子楽譜を1台で持ち運ぶことができるようにした。WiFi機能で楽譜の保存や楽譜の購入もできる。
12、EPDの適用範囲をさらに拡大するため、次世代技術にも手を付けている。イー・インクは6月、有機薄膜トランジスタ(TFT)技術を持つプラスチックロジック(香港)に出資すると発表した。プラスチックロジックが持つ有機TFT技術を使えば、電子インクに電気を流す基板や回路をフレキシブルにすることができるため、将来まさに紙のような薄さと柔軟性を持つEPDを量産できるようになる可能性がある。
13.イー・インクと異なるEPD技術を持つベンチャー企業も登場している。米クリアインクディスプレイズである。クリアインクは2月、中国の中小型ディスプレーメーカーの天馬微電子と開発パートナーシップ契約を結んだ。天馬はTFT駆動回路とEPDモジユール組立て技術を開発する。クリアインクは、18年5月に大手タブレットメーカーと初回注文で1000万ドル分のタブレット用デイスプレーを供給する契約を締結、19年から供給を開始すると発表した。19年1月には中国レノボから出資を受け、次世代タブレットを共同開発することになっている。EPDは今後ますます、私たちの身近にあふれるディスプレーとしてさまざまな用途に採用が広がっていく。


yuji5327 at 06:39 

2019年09月10日

チタンは現時点ではレアメタルだが、イノベーションにより将来はコモンメタルになる可能性が高い。

「岡部徹(東京大学教授):レアメタルー資源の現況と今後の活用法、學士会会報No.934(2019-)」は参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.レアメタルは資源の枯渇や地理的偏在が不安視されているが、枯渇を危惧する懸念はない。むしろ、採掘・製錬技術の限界や各国の環境規制の差のために供給国が偏り、その結果、レアメタル輸入国は供給障害の危険に晒され、輸出国は環境破壊が深刻化していることが問題である。レアメタルのリサイクルが、今後ますます重要になる。
2.専門は、循環資源と材料プロセス工学である。具体的には、.船織鵑覆豹形悩爐寮渋ぅ廛蹈札垢粒発、電子材料用のレアメタル(ニオブ、タンタルなど)の製錬、レアメタルのリサイクル技術の開発である。資源や鉱山開発にも興味があり、世界中の珍しい鉱山と製錬所を訪ねるのが仕事である。
3.2006.年9月8日、日経新聞に「レアメタル、安定供給へ備蓄増強」という記事が掲載され、2012年10月10日には「レアアース、脱中国進む」という記事が掲載された。後者は中国がレアアースの対日輸出を禁止し、日本中がパニックになったことがきっかけで大きなニュースとなっていた。レアメタルも、今や大きく注日されている。
4、鉄、銅、鉛、亜鉛、銀、アルミニウムなどは広く普及し汎用金属で、「ベースメタル」「コモンメタル」と呼ばれており、これら以外の金属は「レアメタル」である。多数のレアメタルの中で、一部のグループが「レアアース(希土類)」と呼ばれ、これらは全部で17個の元素である。レアメタルとは、定義では、)簑⇔未少なく、資源的に希少な金属(白金族、インジウム、ガリウム、タリゥム、ジスプロシゥム、レニゥムなど、∋餮擦亘富だが、メタルを得るのが困難な金属(チタン、シリコン、マグネシウムなど。資源は豊富だが、鉱床の品位(=金属の含有率)が低い金属(スカンジウム、バナジウムなど)。す盻稘拇、特異な形態で優れた機能を発揮する元素(超高純度鉄、高純度非鉄金属など)、ゾ量・微量で特異な機能を発揮する元素(高付加価値を実現できる元素)、Δ海譴泙罵囘咾少なく、工業的には未開発の元素(オスミウム、アクチノイド、超高純度金属など)という定義が加わる。
5.レアメタルの生産と供給には、〇餮散ゝ訐約、技術制約、4超制約がある。,亘簑⇔未少ないことや地理的に偏在していること、△郎侶ゝ蚕僂妨続Δあり、深い地底や海底の資源を利用する技術、品位の低い鉱物を利用する技術、リサイクル技術、有害物の処理技術などが開発されていない、は先進国の環境規制が厳しいことを指す。レアメタルというと、「希少金属→枯渇」というイメージから、日本では多くの場合、,了餮散ゝ訐約だけが注目されて議論されるが、それは間違いで、今、採掘している特定の優良な鉱山が枯渇することはあっても、世界的にみれば、レアメタルそのものが枯渇する可能性は全くない。しかし、レアメタルは、その供給源の偏在性から、明日にでも供給障害に陥る可能性がある。レアアースは中国に、白金族金属は南アフリカとロシアなど、ごく少数の国が世界の供給の8〜9割を独占しているからである。とはいえ、白金族金属以外は、資源が偏在しているとは言えない。ほとんどのレアメタルは世界中に豊富に存在しているものの、低いコストで採掘できる鉱山が一部の国に偏在していることが問題である。
6.レアアースを例にすれば、中国は、年間約10万トンのレアアースを生産し、世界の供給シェアの85%以上を独占しているが、レアアース自体は世界中の陸上に、発見されているだけで1億3000万トン(世界需要の1000年分)存在している。「日本近海の海底で大量のレアアース発見」と報道されたが、陸上資源だけでもほぼ無尽蔵である。海底資源を利用する必要性はない。レアアースは1980年頃までは大半を米国が生産し、中国はほとんど生産していなかった、しかし、2000年頃から中国が供給の大半を担うようになり、米国は鉱山休止に追い込まれた。これは米国のレアアースの鉱山の資源が枯渇したからではなく、米国の環境規制が強化され、採掘・製錬コストが上昇したため、ビジネスとしての競争力が低下したからである。中国では極めて低い環境コストで採掘や製錬を行えるので、他国の鉱山が競争力を失ったのである。
7.その結果、レアアースの供給は著しく中国に偏ることになり、中国が輸出禁止措置を取ると、日本の産業は供給障害でパニックに陥る事態になった。つまり、レアメタルの供給障害のリスクは、採掘・製錬の技術や、環境規制が制約となって供給国が偏り、そこに政治問題や外交問題が絡んで生じる事例が多いの。しかし、企業にとっては「真実」が報道されると困るので、日本ではこのリスクは報道されない。資源の偏在については、白金族金属とタングステンの心配をしている。白金(プラチナ)やパラジウムは南アフリカとロシアに、タングステンは中国に鉱山が偏在している、南アフリカは自由貿易国なので無茶はしないが、中国やロシアが牛耳っているレアメタルについては、備蓄とリサイクルを心掛けるべきである。
8.白金やパラジウムなどの白金族金属は、今後百年以上も採掘可能な鉱山が存在するが、鉱石の品位が低く採掘と製錬に多大なコストがかかり、年間生産量が非常に少ない点も心配である。ただし、いずれのレアメタルも埋蔵量は十分ある。現在の自動車や飛行機には、その部材や制御・計測用電子機器などに多種多様なレアメタルが使われている。自動車は今や「走るレアメタル」、飛行機は「空飛ぶレアメタル」と呼ばれている。スマートホンやコンピューターなどの電子機器(半導体、電子材料)、原子力発電所や太陽光発電装置(バッテリー、変換、送電)も、レアメタルの塊である。合金や医療(生体材料・医薬品・健康食品)にもレアメタルは使われている。具体的には、レアアースは強力な磁石の材料であり、レアアースを含む磁石は、ハードディスク、携帯電話のバイブレータ、ハイブリッド車や電気自動車のモーターに使われている。白金族金属はガソリン車のの排ガス浄化触媒や燃料電池の触媒などに使われる。インジウムは液晶やプラズマの透明電極に、ガリウムは青色発光ダイオードに、タンタルは小型高性能コンデンサーに使われる。今後、ハイテク機器の高機能化がさらに進むと、レアメタルの利用はますます多様化する。日本は最先端素材・レアメタルの開発と供給の分野で、トップランナーである。
レアメタルー資源の現況と今後の活用法(岡部)
9.近年、先進国のメーカーは自社の環境保護への取り組みとして、「工場のゴミゼロ化運動」や「CO2削減」や「省エネ」を喧伝している。例えば、アップル社は、「iPhoneで使用するアルミニウムは、水力による電力を利用して作るため、製造過程でのCO2の発生量が低く抑えられている」と宣伝している。ハイテク・省エネ製品を享受しながら、「私は環境に貢献している」と信じているが、ここには大きなからくりがある。
10、自動車を例では、電気自動車一台を製造するには約50圓瞭爾必要である。銅鉱石の品位は約0.5%なので、約10tの銅鉱石が必要なのだが、銅の抽出後、残りの約10tは全てゴミになる。そのほとんどが鉱山周辺で処分される。しかもこのゴミには、ヒ素などの有害物質が含まれている場合がある、高性能モーターの製造にも、ネオジムなどのレアアースが必要である。これを鉱石から抽出する際も、ウラン、トリウムなどの放射性物質を含んだ廃棄物が大量に発生する。ガソリン車の場合、排ガス浄化触媒として白金族金属が使われる。自動車1台あたりの使用量は数gだが、鉱石の品位はppmオーダーと低いので、自動車1台につき数トンのゴミが、白金族金属を使うだけで発生する。このように、車1台分の原材料を調達するためだけでも、天然鉱物の採掘と製錬の過程で莫大なエネルギーが消費され、大量の有害物質を含む廃棄物が発生している。
11.ます。ハイテク製品が生産されると同時に、私たちが目にすることがないところで、深刻な環境破壊が起きている。先進国の企業は、採掘と製錬の過程を全て途上国に任せ、環境負荷を全て途上国に負わせている。一般の人がそれを知らないことにつけ込んで、環境破壊の実態には頬かむりして、有害物を取り除いた後の綺麗な原材料を輸入している。こうした仕組みで、国内のハイテク工場でゴミの発生を徹底的に減らして「環境に優しい」と謳っている。近年ではオーストラリアで採掘したレアアースの鉱石を、放射性物質を処理する社会システムと技術を持つマレーシアに持ち込んで精錬し、有害物を除去した後に、高純度になったレアアースだけを日本に輸入する動きがある。マレーシアに高純度化と廃棄物処理を任せることで、オーストラリアや日本の厳しい環境規制を回避する、これは「賢いビジネスモデル」と言えるが、このモデルが本当に環境に優しいとは言えない。
12.アルミニウムは剣などの刃物としては脆弱だが、盾やヘルメットにすると軽くて強くて輝きもあるので、相手の戦意を喪失させるハイテク軍事物質として皇帝にも愛された。その昔は、貴金属よりも高価であった時代もあったが、その後、製錬法の技術革新によりコモンメタルになったが、120年前は貴重なレアメタルだった。つまり現在のレアメタルも、採掘・製錬技術やリサイクル技術が進歩すれば、コモンメタルに変わる可能性があります。羽田沖D滑走路の桟橋部の天井面には、錆びないように合計1000tの薄いチタンが貼られている。
13.新素材の普及を考える時、重要なのは素材の製造コストである。例えば鉄は1圓△燭50円、チタンは3000円である。一方、自動車の価格は1圓△燭蠅録千円、航空機は約20万円である。つまり、現時点では自動車を高価なチタンで作るのは高くつき割に合わないので、安価な鉄で作るべきである。逆に、高い素材コストを許容できる航空機なら、チタンをふんだんに使える。日本はチタン製造の超大国で、世界の20〜30%の生産シェアを占めている。チタンは現時点ではレアメタルだが、イノベーションにより将来はコモンメタルになる可能性が高い。
14.今の社会システムの最大の問題は、経済原理が優先され、鉱物資源が本質的に有する価値が評価されず、タダ同然で採掘され、消費・廃棄されていることである。レアメタルのほぼ全量を輸入する日本は何をすべきかは、最良なのは何も買わないことだが、もしも買うなら、とことん使用すること。「環境性能がよい」「省エネだ」という謳い文句に踊らされて次々とハイテク製品を買い替えて、「環境に貢献した」とは絶対に思わないことである。使わなくなった携帯電話などは、回収センターに持って行くこと。携帯電話1台に含まれる金の量は微量だが、金の品位は金鉱石の100倍はあるので、まとまった量が集まれば、業者は必ず回収する。さらなる供給障害のリスクを回避するためにも、中国とロシアが牛耳るレアメタルを中心に、我が国はリサイクルと備蓄の推進が必須である。


yuji5327 at 06:28 

2019年09月07日

100までの素数は25個、2、3、5、7……と97まで、ちょうど25個並べて書いた。素数のリストには間違いがあった。「91」を素数としてしまった。


「加藤文元(東京工業大学教授):登場頻度は気まぐれなのに意外な法則がある素数の魅力、週刊ダイヤモンド、2019.7.20」は面白い。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.数学者は数学で間違うことはないと、多くの人は思うかもしれない。しかし、人間誰しもミスはある。最近の筆者の著書「宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』(KADOKAW)で、100以下の素数を順に並べる箇所があった。素数とは1と自分自身しか約数を持たない、2以上の自然数.のことである。100までの素数は25個と知っていたので、2、3、5、7……と97まで、ちょうど25個並べて書いた。ところが筆者が本に書いた素数のリストには間違いがあった。なんと「91」を素数として入れてしまっていた。91は7×13なので素数ではない。うっかりそれに気付かず書いてしまった。「91はブンゲン素数」素数ではないものを書いてしまい、しかも個数が正しかったのだから、どれか本物の素数を忘れていたことになる。実際、47という素数を書き忘れていた。このことに初版の刊行までうかつにも気付かず、出版後に読者のツイートで初めて知った。読者の指摘を受け、私は次のようなツイートを返した。「91はブンゲン素数になりました」。
2.このツイートの意味は、その昔、グロタンディークというフランスのすごい数学者がいて、この人が素数で似たような間違いをした。抽象的な数学の構築で有名なグロタンディークはあるとき、「ρを素数とする」と議論を始めた。そこで聞き手が「具体的な素数で話してくれ」と頼んだところ、「じゃ、57にしよう」と答えた。57は3x19なので素数ではない。でも、ついつい素数に見えてしまいそうな数だ。そこで、コすごい数学者の初歩的ミス」という「ギャップ萌え〃的なエピソードから、57は「グロタンディーク素数」と呼ばれ、堂々の「名誉素数」になった。筆者はすごい数学者ではないから、グロタンディークと肩を並べる気は毛頭ないが、91を素数としてしまったことがこのエピソードに似ていて、面白いと思ったので、ジヨークのつもりで「ブンゲン素数」と呼んだ。「ブンゲン」は、筆者の名前「文元」を音読みした。ところが、これがツイッターの数学ファンたちの間でちょっと有名になった。
3.素数には語り尽くせない魅力がある。どんな自然数も、素数の掛け算の形に、1通りに、分解されるというのが「素因数分解定理」である。その意味では、素数とは自然数を構成している「素粒子」のようなものである。そしてその一つ一つが、それぞれの顔を持っている。とはいえ、素数はつかみどころのない、気まぐれな存在でもある。1、2、3……と続く自然数の中で、素数が現れるタイミングには規則性があるようには思えない。
4.11と13や、1229と1231のように2だけ離れている、いわゆる「双子素数」というものもあれば、887という素数のすぐ次の素数は20も離れた907だったりすることもある。実際、素数がどのような頻度で現れるのかという「素数分布」の問題は、最高の難問とも呼ばれるリーマン予想(いわゆるミレニアム問題の1つ)に直結した、数学上の最大の謎の一つでもある。中学生にも分かる数の概念で、これほどまでに深いからこそ素数は多くの人を魅了してきた。
5.素数オタクは、自分の「推し素数」を持っている。乃木坂46は46人しかいないが、素数は無限にあるので、いくらでも自分の好きな素数を探す旅を続けることができる。そこにも、素数の魅力はある。写経ならぬ「写素数」をする人たちもいる。毎朝、きれいな心で100までの素数を2、3、5、7……と1個ずつ書いていくという、一種の「修行」である。心が乱れていると、書き上げた素数の数は25個にならない。やってみると、なかなか25個にならない。そして、ちょうど25個になっても、筆者のような聞違いをしていることも多い。
6.100までの素数の個数は25個なのだが、1000までに素数は168個あり、1万までには1229個ある。10までの素数が4個であることを併せて考えると、素数の出現する割合は、0・4、0・25、0・168、0・1229と減っていくことが分かる。素数は無限に多く存在するが、その現れる頻度は徐々に減っていく。その分布の様子はどうなっているかが、素数分布の問題である。中でも有名なのが、「ガウスの素数定理」(ガウスにょって予想され、19世紀末にプーサンとアダマールによって証明された)と呼ばれている定理で、それによると、素数の出現割合は自然対数の逆数で近似できる。
7.一つ一つの素数はそれぞれに顔を持ち、それぞれに魅力的だが、素数の全体的な振る舞いにはこうした意外な法則性がある。素数たちが協力して意外な振る舞いをする姿は、他にも見受けられる。各素数の2乗の逆数を1から引いて、その逆数を素数全てにわたって掛け算する。そうすると、不思議なことに、円周率πの2乗を6で割った数になることが証明できる。素数が集まって、円周率のような数を作り出すところに、深い意外性がある。
8.先述したように、差が2である素数の組は、双子素数と呼ばれる。双子素数の組が無限にあるか否かというのは、双子素数問題と呼ばれ、数学上の難問の一つである。最近、張益唐という数学者が、この問題について人きな進展をもたらした。それによると、隣合った素数の組で、その差が7000万よ小さいものは無限に多く存在する。この「差」は現在、その後の数学看たちの研究によって246まで狭められている。すなわち、隣合った素数の組で、その差が246以下であるものが無限に多く存在する。
9.かくも素数は清らかで、奥深く、難しい。そして素因数分解の計算の量的困難さが、暗号のセキュリティーを支えているように、社会の中でも重要な存在である。素数はわれわれの身近にある数の素粒子である。


yuji5327 at 06:39 

2019年08月29日

従来AIが書いた文章は幾分ぎこちなく、文脈に一貫性がないきらいがあった。しかし、オープンAI社のGPT-2は人と見まがうばかりの流暢な文章を書く。


「池谷裕二著:闘論席、週刊エコノミスト、2019.7.9」は面白い。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。1.人工知能〔AI)に絵を描か人せたり、作曲させたりといった芸術試行は珍しくはないが、一連のAI創作でも「執筆」は異質である。今年2月に米国のオーブンAI社が発表した言語生成モデル「GPT-2」の完全版が、悪用される懸念から非公開となったことが象徴的である。
2.従来AIが書いた文章は幾分ぎこちなく、文脈に一貫性がないきらいがあった。しかし、GPT-2は人と見まがうばかりの流暢な文章を書く。小説の冒頭部分だけを与えれば、つじつまの合うようにに続きをつづり、原作とは異なるストーリーを完成させる。
3.小説だけではなく、まことしやかなフェイクニュースさえも自動生成する。悪用されればインターネットはフェイクニュースで氾濫し、瞬時に使用に堪えない代物になる。同社は次作GPT-3の開発も手がけていると聞くが、AI自動執筆は便利さと有害性が隣り合わせである。
4.せっかくAIが芸術に通じているのならば、もっと有効な活用法はある。昨年発表された米グーグルのニューラル・イメージ・アセスメント〔NIMA〕は一例である。画像に対する審美眼を生かし、絵や写真を採点するAIである。AIから高い芸術点をもらえるよう努めることで芸術的センスを磨くトレーニングも現実味を帯びている。
5.5月にはフランス国立土木学校から古典絵画を分析するAIが発表された。描かれた人や静物などのモチーフを解析し、類似点や相違点を抽出する。たとえば、16、17世紀のフランドルで多くの画家を出したブリューゲル一族の絵画は、画風が似ており、専門家でも判定に苦労するが、このAIは精度よく鑑定する。
6.どのように芸術が発展・変遷していったのかという時代系譜を作ることもできる、こうしたビッグデータ解析は熟達した学芸員でも気の遠くなる時間が必要である。


yuji5327 at 06:36 

2019年08月26日

透過電子顕微鏡の分解能は飛躍的に向上し、最高分解能は、水素原子列の観察や原子の中まで観察できる。

「幾原雄一(東京大学教授)著:最先端電子顕微鏡でどこまで小さいものが見えるのか? 學士會会報No.937(2019-)」は面白い。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.今世紀に入って透過電子顕微鏡の分解能は、球面収差補正装置の出現とあいまって飛躍的な向上をとげた。現在の最高分解能は、2017年に東京大学と日本電子株式会社が共同で達成した40.5pm(0.405オングストローム)であり、水素原子列の観察や原子1個の観察のみならず原子の中までもが観察できる驚異的なレベルに達している。レンズ収差補正技術による分解能向上の変遷とそれにともなう技術革新、材料科学への応用、本分野の今後の展望などについて述べる。
2.1990年代に実現した収差補正装置の開発は電子顕微鏡分野を大きく変革させた。収差補正装置とは、多極子レンズを上手く組み合わせることによって、電子線を偏向しては元に戻すという過程を繰り返すことでレンズの収差を補正する装置である。1990年に独ダルムシュタット工科大学のRoseは、2段の6極子レンズと転送レンズを組み合わせるという独自のアイデアにより最初に透過電子顕微鏡(TEM)用の収差補正装置を考案し、これを基に、1995年にCEOS社のHeiderらが実用可能な球面収差補正装置をはじめて開発した。
3.Heiderらによって開発されたRose型6極子球面収差補正装置は世界中に普及し、現在各社より市販されている収差補正装置のほとんどがこの方式となっている。一方、走査透過電子顕微鏡(STEM)については、米Nion社のKrivanekらの1999年の報告が最初であり、実際のSTEM像で収差補正による分解能の向上を示した。 STEM法は応用範囲も多く、その後の革新的な普及につながっていった。
4.STEM法で実際にlA(オングストローム)以下の分解能を最初に達成したのは、2004年に米国オークリッジ国立研究所のPennyccookらがSiの結晶で示した78pmであるが、これはNion社の収差補正器をつけたSTEM機(300kV、VG社製=HB603U)で達成したものである。その後米国は、TEAMという国家プロジェクトを推進し、2008年にGe結晶で47pmの分解能を実証し、はじめて50pmを切る分解能を達成した。それ以降2014年まで、その分解能の更新はなされなかったが、2014年に東京大学と日本電子の研究グループがSTEMで当時最高分解能となる45pmを、さらに2017年、現時点で最高分解能である40.5pmの分解能を達成している。その際、日本電子が独自に開発したデルタ型収差補正装置を搭載している。
5.収差補正装置の発展に伴い、電子顕微鏡の分解能が飛躍的に向上してきたが、現在、分解能競争はほぼ飽和しつつある。一方、このような大幅な分解能の向上に伴い、これまでブラックボックスであった種々の物質・材料現象や界面・粒界などの原子・電子構造が明らかになりつつあり、材料科学の分野において大きなプレークスルーがおきている。
6.STEM法は、1舒焚爾帽覆辰薪纏劵廛蹇璽屬鮖醂曽紊覗査し、各プローブ位置における散乱電子を試料下部の環状暗視野(ADF〉検出器で収集し、プローブの走査と同期させてモニター上に像を形成する手法である。その際、電子プローブを原子間隔以下にまで絞り込むと原子分解能の像を得ることが可能となる。本手法の特徴は、デフォーカス及び試料厚みの変化に伴う像コントラストの反転現象が少なく、原子の位置を像から直接決定できることにある。この優れた特徴は、特に粒界・界面や格子欠陥等の局所的に構造が乱れた領域の原子構造を決めるにあたって、非常に有用となる。この手法は、前出のレンズ収差補正技術の実現によって大きく変革した。
7.STEM像は、結像に用いる散乱電子により異なるコントラストを呈する。電子銃からでた電子線が、電子レンズ(対物レンズ)によって、試料上にプローブを形成する。この際、収差補正装置を用いると0.1nm以下の極細プローブを得ることができる。このプローブを試料上で走査させて像を得るが、試料を透過した電子線は中間レンズ、投影レンズ系を経た後、電子線検出器によって検出される。
8.検出器には、散乱された電子が入射するが、高角度に散乱された電子線を検出する手法をHAADF・STEM法と呼び、原子番号Zのおよそ2乗に比例した像コントラストを得ることができる。この際、検出する散乱角度を選択するために検出器は円環状の構成となっている。検出器を低角度側に設定したときは弾性散乱電子が、高角度側に設定したときは熱散漫散乱電子がそれぞれの像の強度を支配する。 最近では、収差補正STEM法とエネルギー分散型X線分光法(EDSあるいはEDX)や電子エネルギー損失分光法(EE」S)を組み合わせることにより、原子カラムごとの組成分析や状態分析も可能になっている。
9.低加速・高分解能化・新検出器・その場観察力ーボンナノチューブやソフトマテリアルは電子線照射に弱く、低加速で観察することが望ましい。電子顕微鏡の低加速化は試料のノックオンダメージを抑えるのにも非常に効果的であるが、低加速電圧においても原子分解能を実現するためには収差補正技術の高性能化が必要となる。これを克服するために、デルタ型収差補正装置を低加速電圧電子顕微鏡に搭載し、加速電圧30kV程度の低加速電圧でも0.1伉度の高い空間分解能を得ている。


yuji5327 at 06:37 

2019年08月11日

宇宙で、ヒトの脳ほど複雑な構造物はない、地球上では、ヒトの脳がそのサイズの物体として最も複雑である。


「藤田一郎著(大阪大学教授):脳のネットワークの全貌解明挑戦はどこまで進んでいるか、週刊ダイヤモンド、2019.6.29」は参考になる。-.
1.宇宙で一番複雑な物体は難しいが、ヒトの脳ほど複雑な構造物はない、地球上では、ヒトの脳がそのサイズの物体として最も複雑であることに異論はない。860億の神経細胞から成り、そのそれぞれが数10個から数万個の他の神経細胞とつながり、接続部であるシナプスを介して情報のやりとりを行うやりとりを介して生じた神経細胞群の活動が、私たちの心と振る舞いをつくり出す。一つの神経細胞につながる神経細胞の数.の平均が100個であるとすると8・6兆個、もしも1000個であならば8.6兆個のシナプスを脳は持つ。いずれにせよ、とてつもなく膨大な要素から成るネットワークである。これらの神経細胞はランダムにつながるのではなく特定の相手と接続し、その粘果、特有の構造を持ったネットワーク(神経回路)を形成する。
2.電子回路の設計がコンピューターの機能を大きく左右するように、神経回路の構造が脳における情報処理を強く規定する。膨大な神経回路のどの部分が特定の心の出来事や行動に関係しているのか。それぞれの神経細胞において情報処理はどのようになされ、どんな神経回路がそれを可能にしているのか。私たちが成長し、年を取る過程でそれらの神経回路はどう変化していくのか。心の病はこれらの神経回路に何が起きた結果なのか。こうした問題はどれも重要な研究テーマである。
3.脳神経科学の研究は、多くの場合、これらの問題の一側面と脳の中のある一部との関係を調べている。しかしそのようなアプローチとは別に、神経回路全てを対象として、どの細胞が他のどの細胞とつながっているのかの全貌を明らかにしようという試みがなされている。神経回路の総体はコネクトームと呼ばれ、コネクトーム解明に取り組む研究分野はコネクトミクスと呼ばれる。オバマ前大統領時代に始まった米国のプレイン・イニシアチブ・プロジェクトの中核課題であり、類似プロジェクトは日欧でも推進されている。
4.ヒトのゲノム(DNA全体の塩基対配列)は2003年にその解読が完成した。塩基対の数は30億個あり、その中には、およそ2万2000の遺伝子(特定のタンパク質のアミノ酸配列を指定する塩基対配列)が含まれることが判明した。ヒトの脳のコネクトームは、それに比べて明らかにせねばならない対象の数が数桁多い。加えて、一つ一つの神経細胞と他の神経細胞との接続を明らかにするにはたくさんの技術的困難がある。
5.神経細胞同士の機能的接続を担うシナプスはその大きさが1μmにも満たないため、その有無を確定するには電子顕微鏡を使う必要がある。観察試料を電子顕微鏡で観察するには、50nm程度のスライス〔切片〕にする。たった1mm^3の脳組織であっても、その全てを観察するには、2万枚の切片を作製しなくてはならない。1枚の欠落もなく2万枚の切片を作製することは厳しい技術的要求である。
6.その1枚1枚の中に、神経細胞の細胞体、樹状突起、軸索、グリア細胞、血管内皮細胞などの断面がぎつしりと詰まっている。ショウジョウバエの神経系のある1断面3・5μm四方の電子顕微鏡写真を見ても、その複雑さが分かる。もし、1mm四方を観察しようと思えば、このような写真が8万枚以上必要である。そして、これらの写真に基づいて3D再構成を行うには、この切片のどの部分が上下2万枚の切片のどの部分につながるのかを決定する必要がある。
7.このような技術的困難から、1種類の動物を除いてコネクトームの解明は実現しておらず、マウスの網膜や大脳皮質視覚野、ショウジョウバエの視覚系で部分的な結果が報告されているにすぎない。コネクトームが解明されている唯一の動物はカエノラプディティス・エレガンスという種類の線虫である。体長1mmにも満たないこの動物も神経系を持っており、走性(化学物質や温度に誘引されたり、忌避したりする行動)や学習などの能力を持っている。先端から後端までの全てを切片にすることで、この動物が持つ302個の神経細胞がシナプスでつながっている全様相が1986年に明らかになっている。
8.「なんだ、線虫か」という声が聞こえるが、今のように大容量画像データを取り扱うデジタル技術が発達していなかった時代に、電子顕微鏡写真の巨人なブリントアウトに基づいて行った驚くべき研究である。ゲノムの令.解明もまた多細胞生物としては線虫が最初であり、その成功がヒトゲノムプロジェクトへの推進力となった経緯がある。
9.ヒトのコネクトーム解明に特有の技術的な制約は、脳を傷つけずに観察する方法しか適用できない。従って、現段階では、ずっとマクロなレベルの解析に力点が置かれている。用いられる代表的な方法は磁気共鳴映像(MRI)法であり、脳の活動を血液中のヘモグロビンの変化を見ることで計測する機能的MRI法や、水分子の拡散を見ることで神経線維の走行を可視化する拡散強調イメージング〔DTI)法などがある。DTI法で推定したヒトの脳の主.費な神経線維の走行は生きている人間に適用でき、比較的容易に計測ができる利点があるが、細胞レベル、シナプスレベルの解像度はない。
10.技術的なハードルを強調する話が続いたが、コネクトミクス研究の重要な拠点である米国ジャネリアファーム研究所の研究者からの私信によれば、25万個の神経細胞を持つショウジョウバエのコネクトームの完成が2年後に見込まれているという。いつになるかの予想はできないが、ヒトの脳のコネクトーム解明の日もきっと来るに違いない。


yuji5327 at 06:32 

2019年07月21日

有機EL技術の進化を、出光の発光材料が支えている。通称「出光ブルー」。フルカラーディスプレーに欠かせない、この青色有機EL材料を開発した。石油專業以外で収益の柱を育てた。


「本誌・堀内亮著:ものつくるひと、有機EL材料、舟橋正和、週刊ダイヤモンド、2019.7.15」は参考になる。、概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.バブル崩壊で日本経済が停滞していた1997年。出光興産では、千葉県袖ケ浦市にある中央研究所(現次世代技術研究所)の近くの合宿所に有機EL材料の研究開発チームが集められた。出光も例に漏れず業績が低迷し、有機EL材料の研究開発事業は「金にならない」として廃止対象の狙上に載せられていた。実用化の気配がないことにいら立つ経営幹部を前に、チームメンパーの舟橋正和は叱責をただただ黙って聞いていた。後に彼が大成功の立役者になることを、幹部も本人も知る由はなかった。
2.20余年後の現在、有機ELディスプレーはテレビやスマートフォンで次の主流と目されるようになった。有機ELとは、特定の有機化合物に電気を流すと発光する現象。有機EL技術で映し出される映像は、まるで本物を目の前で見ていると錯覚するほどに鮮やか。テレビやスマホはバックライトが不要になり、薄型化や軽量化、そして省エネが可能になった。
3.有機EL技術の進化を、出光の発光材料が支えている。通称「出光ブルー」。フルカラーディスプレーに欠かせない、この青色有機EL材料を開発したのが、電子材料開発センター所長付の舟橋氏である。バブル崩壊前の85年に、出光は石油專業以外で収益の柱を育てようと、培ってきた石油化学分野の技術を応用して有機EL材料の研究に着手した。目指したのは、開発が最も難しいとされた青色発光。有機ELテレビの実現を目標に据えていた。
4.東京工業大学で触媒反応を研究した舟橋氏は大学院を卒業後、93年に出光に入社。97年から有機EL材料の研究開発チームに加わった。研究開始から10余年がたち、同社の経営層から廃止対象事業の候補としてチームに厳しい目が向けられるようになった。青い光を放つ発光材料「ジスチリルアリーレン」を89年に発見しており、後の成功につながる技術はすでに生み出されていた。この寿命と耐久性、光の量が実用化への課題だった。
5.舟橋氏が研究開発チームに加わった97年には、課題を克服する発光材料「スチリルアミン」を開発。着実に実用化への歩みを進めていた。舟橋氏の上司で開発当初から研究に携わっていた細川地潮氏(故人)はチームメンパーを叱咤激励すると同時に、金にならない研究なんか、やめてしまえ、と言う経営幹部らに「やらせてください」と直談判した。舟橋氏は、結果を出さなければとプレッシャーを感じた。いくら優れた技術を生み出しても、ビジネスとして成功しなければ宝の持ち腐れなので、技術が"金のなる木〃だと証明する必要があった。
6.解散の危機に青ざめた研究開発チームは、ようやくともり始めた出光ブルーの火を消さないために、具体的に結果をかたちにしようと決めた。それが、開発した青色発光材料を使った、世界初の有機ELテレビの試作品である。普段は"化学屋〃として研究に没頭していた舟橋氏が機械をいじり、試作に励んだ。97年に米国のボストンで開催された国際ディスプレー展示会で、出光が発表した世界初の有機ELテレビは、世界中の電機メーカーから注目を集め、試作品は大成功を収めた。形勢は逆転し、開発をさらに加速させることになった。
6.それでも実用化のゴールはまだまだ遠かった。有機EL材料の商品化への課題は大きく2つあった。1つ目は色の純度。97年に開発した発光材料は「ライトブルー」、つまり水色である。色の再現性を高めるためには純粋な青色が必要で、ライトブルーではその純度が足りなかった。2つ目は耐久性。商品の基準として1万時間の寿命が求められる。純粋な青色はその基準を満たしていなかった。
7.青色の純度と耐久性を向上させる手掛かりはあった。フルカラーディスプレーに必要とされる光の三原色「赤、緑、青」のうち、赤と緑はすでに他社が実用化に成功していた。いずれもエネルギーを受け取るのに適した材料と、発光に適した材料を組み合わせることで色の純度と耐久性をクリアしていた。舟橋氏はこれをヒントに仮説を立てて材料の構造式を考え、数カ月かけて材料を合成。さらに材料を組み合わせて評価にかける。代わり映えのしないスペクトルが出て、振り出しに戻る。トライアル・アンド・エラーを100回以上繰り返した。
8.2000年ごろ、ついに花は開いた。舟橋氏の目の前の画面に、仮説通りの美しいスペクトルが現れた。「これならいける」と確信した。この流れで高効率で長寿命の純青色発光を実現する材料を開発し、02年に特許を取得。さらに改良を加え、05年には量産化のめどが立った。電機メーカーの担当者に開発した材料とその評価データを見せると好感触で、出光ブルーが実用化へ動きだした。
9.10年代の前半から有機ELテレビが登場し、米アップルは18年に発売したスマホ「iPhoneX」に有機ELディスプレーを採用。有機ELの存在感はどんどん高まっている。舟橋氏は今、後進の育成に取り組む。有機ELディスプレーが採用されるようになり、有機EL材料は産業として成り立つようになった、と目を細めつつ、素材メーカーとの競争が激しくなった、と気を引き締める。より良い材料を求め、飽くなき研究は続いている。


yuji5327 at 07:02 
池上技術士事務所の紹介
261-0012
千葉市美浜区
磯辺6丁目1-8-204

池上技術士事務所(代表:池上雄二)の事業内容
以下のテーマの技術コンサルタント
1.公害問題、生活環境、地球環境
2.省エネ・新エネ機器導入
のテーマについて、
・技術コンサルタント
・調査報告書の作成
・アンケート調査・分析
・技術翻訳、特許調査
を承ります。
有償、無償を問わず
お気軽に下記にメールをください。
ke8y-ikgm@asahi-net.or.jp

工学博士、技術士(応用理学)、
公害防止主任管理者、
騒音防止管理者の資格で
お役に立ちたいと思います。

池上湖心 プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山に師事
書象会に所属、書象会理事
審査会々員
○作品展の開催
・主宰している「さざ波会」
 作品展を毎年8月開催
(於:稲毛ギャラリー)
・土曜会(グループ展)
 作品展を毎年10月開催
(於:銀座大黒屋)
○公募展の受賞、入選
・日展入選
・読売書法展(現在理事)
 読売奨励賞
 読売新聞社賞
・謙慎展(現在理事)
 春興賞の受賞:2回
○書道教室
・学生:月曜日
・一般:火曜日、水曜日





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